ERPマーケット最新市場動向
2001.08.01

Y2K以来少々沈滞気味であったERP市場が復調し盛り上がっている。
しかし、SCMやCRMへの広がりの中で人材不足が深刻になりつつある。
機能的には、カンバン生産方式への対応などますます進む日本化対応機能や収集したデータの活用のための機能が拡張されてきている。

■第2次ERPブーム???

◆ 増加するERP導入プロジェクト

日本では、昨年の後半からプロジェクトが増加してきている。依然として検討期間は長いものの中堅企業におけるERPの検討・導入もようやく本格化しつつある。また、製造業のみならず流通・サービス業などへの導入が進んでいることも見逃せない。

既に、システム再構築時にERPの検討は当たり前になってきた。また、ほとんどのシステム・インテグレータでERP系人材を組織化し積極的にビジネス拡大に取り組んでいる。

主要ERPパッケージのweb対応や製番対応も当然となり、より進んだ日本化対応の時代に入ってきている。また、外国製と同等の機能を持った国産パッケージも出てきた。このことも市場が活性化されていた要因のひとつと考えられる。

◆ 充実する日本化対応機能

ERPパッケージが日本へ本格的に参入しだしてから6〜7年が経過しようとしている。しかし、いまだに導入しない最大要因として「自社の業務や商習慣に合わない」が挙げられている。これは、一概にパッケージベンダーの責任にはできない。もちろん、もともとが製造業への適用を前提として育ってきたERPを他業種へ適用することには多くの問題を含み。パッケージベンダーの努力に依存する部分は大きい。

しかし、製造業においても同じような話を多く聞く。これは、現状の業務からスタートしボトムアップ型で業務要件を詰めていくことに問題がある。これでは、使いにくいとか、レポートが合わないとかが、大きな問題としてあがってしまうことになる。ERP導入を、経営革新のためのシステムインフラの革新と位置付けて、ERPパッケージの持つ強みを活かせるかどうかを議論すべきである。

最近のERPでは、カンバン生産方式やセル型生産方式など多くの生産方式への対応も進んできている。また、テンプレート化も進んできており、業務プロセスのみならず必要なレポート作成についても多くが準備されてきている。問題は前記の顧客方針である。

◆ 深刻になりつつある人材不足

市場活性化のあおりを受け、ERP系人材が大きく不足してきている。そして、人材不足のあおりを食って初心者や未経験者がプロジェクトにアサインされトラブル・プロジェクトとなる危険性が多くなりつつある。

特に、導入プロジェクトの要となるプロジェクト・マネージャー(PM)やコンサルタントの質がプロジェクトの成否を決するにも関わらず、ユーザが十分吟味できていないケースも見られることは残念である。

■市場シェア変化

◆ SAP+Oracleの2強時代へ

日本の実績主義が功を奏したのかSAP社とOracle社が実績を伸ばしており、3位以下がドングリ状態であり、2位との差が開いている。

Y2K以降の伸び率の鈍化を受けリストラや日本法人の社長交代もあったためか、日本企業の実績主義やブランド志向に助けられ2社は順調な伸びを達成している。しかし、今年度に入り多くのベンダーが近年にない契約実績となっており、今年度の終わりには勢力図が塗り替えられる可能性もある。



◆ 虎視眈々とチャンスを狙う3位以下グループ

3位以下のグループは、国産パッケージの台頭が目立つ。中堅中小企業中心に1000社以上へと実績を伸ばしているものも増加しており、一気に単独3位への可能性もある。しかし、その多くが単機能パッケージでありERPパッケージとして評価すべきかどうかは迷うところもある。ただし、日本企業が汎用業務パッケージをどんどん採用していることは大いに評価できる点である。

■次世代ERPへの取り組み

◆ 拡張ERPの実現

企業がeビジネスへの移行速度を高めていることに対応するためにERPパッケージも大きく変貌を遂げようとしている。ERPパッケージがカバーする業務エリアとして、セールス、製品開発サイクル、MES、デリバリ、サービスなどを一貫して取り扱う方向であり、その基盤技術としてはWebを中心としたインターネット対応とデータベースの整備に焦点を当てている。言い換えれば、eビジネスを取り込んだ企業活動全体をカバーするトータルソリューション化の方向である。また、その他にもビジネス・インテリジェンス(BI)分野とモバイル対応そしてワークフロー(WF)やナレッジマネジメント(KM)などに各社とも積極的に投資してきている。

その他、ERP各社が積極的に取り組んでいることに、EAI機能を拡張し、SCMやCRMとの連携や各種EC系システムとの連携を容易にしてきていることが上げられる。これは、ERP側からの努力のみならず、関連パッケージ側からのEAI機能(と呼ばないケースもあるが)の強化にも助けられ、今後もこの傾向は進むものと考えられる。

◆ データ活用への進化

ビジネスプロセス中心であったERPが、収集したデータの活用視点に拡張が進んできている。
データウエアハウス(DWH)から従来のOLAPの延長線上にあるビジネス・インテリジェンス(BI)機能の拡張はもとより、SAPやOracleには、最近国内でも検討や導入が進みつつあるバランス・スコアカード(BSC)機能を持ったコンポーネントも開発が進んでおり、そろそろ活用可能な状態になりつつある。このようにユーザのニーズを先取りするのもERP導入のメリットのひとつであろう。



■最後に

昨年も述べたが、ユーザ側もベンダーやSI側も依然として多くの問題を抱えている。
円滑なERP導入を妨げる要因としては、1)ユーザの明確な目的・目標の欠如、2)経験豊富なコンサルタントの欠如、3)依然として高価なERP導入、などが上げられる。

◆ ユーザの明確な目的・目標の欠如

多くの企業でERP/CRM/SCMなどが重要課題として取り上げられているが、残念ながら何のために検討しようとしているのかという目的が明確でないケースを多く見受ける。 企業の長期ビジョンや経営理念を見直しその基盤の上に企業としての経営戦略を構築しなければ、単にキーワードを取り上げて検討しようとしても結論は出てこない。

中途半端な『変わらなきゃ!!』意識は百害あって一利なしである。半年以上も会議は踊る状態で無意味な経営改革活動なるものを実施するくらいなら、得意な改善活動を数項目でも実施した方が前進できる。今こそトップダウン型で経営活動全般を見直し、企業の将来に向けた青写真を創作すべき時期である。

◆ 経験豊富なコンサルタントの欠如

現在のIT業界はコンサルタントとPM不足である。特に、パッケージの知識のみならず業界や業務の知識が不可欠となるERPやSCMの導入ではその傾向が顕著となる。

もともと日本の情報サービス産業ではこのような人材を育成してこなかった。顧客の要望を100%実現することのみを追求し、目的目標を顧客とシェアしその実現へ企画段階から関わるような活動をやってきていない。この点では顧客側にも責任の一端はある。

顧客として今できることは、1)「会社(ブランド)」ではなく「人」で選択する、2)SI/ベンダー/コンサルに対して主導権を握れる知識能力をつける、(能力が不足していれば、プロのアドバイザーをアサインし、SIやベンダーとのコーディネーションやアドバイスを依頼する)、3)契約段階で可能な限り関連組織の役割を具体的に明確にしておく、ことである。

◆ 依然として高価なERP導入コスト

コンサルタントは、多くの知識・経験・能力が要求されるので高価なものである。しかし現状は、能力と金額のギャップが大きい。ここに問題の多くが起因する。また、プロジェクト総額については、1)曖昧な責任分担のため、リスク回避した金額を提示せざるを得ない、2)顧客側が人月積上でしか理解できないため帳尻合わせの見積もりとなる、3)SI側の知識不足や顧客側の議論不足でカストマイズやアドオン開発を安易に実施している。

顧客側の自衛策としては、1)能力を見極め賢く使うノウハウの蓄積し、2)見込まれる効果とリスクを明確にし、そこに向かうプロセスと役割を契約前に明確にすることで、3)最低限のコミットメントを契約時に確保する、ことが必要である。最も重要なのは、顧客自身がドンブリ勘定からの脱皮をすることだと考える。


社会環境としても、ユーザ視点に立って各種の最適なアドバイスを提供するITコーディネータの育成を急ぎ、安価にそのサービスを提供できる仕組みの構築が待たれる。この実現により、無駄なアドオン開発を防ぎ、プロジェクトの円滑な推進を支援し、最適なパッケージやインテグレータの選択を可能にすることが可能となるであろう。

以上

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