◆◆◆ 中小企業のためのIT導入講座 ◆◆◆

(株)TRUソリューションズ
代表取締役 西 嶋 陽 一





第1編 「IT革命時代」

「注目されるIT関連テーマ」

21世紀のビジネス環境においては、企業内のみならず企業をまたがった各種のビジネス・プロセスを統合・再編することにより、競争力のある革新的なビジネス・プロセスを持ちうるかどうかが企業の生き残り戦略上非常に重要なことである。これは大企業のみならず中小企業においてはより重要な戦略となる。それは、インターネット技術の進んだ今日において無店舗や無工場で世界のトップクラスに君臨する企業が多く存在するからである。さらに驚くべき事には、その多くがつい数年前まで無名あるいは存在さえしていなかった企業だからなおさらである。そして、その成功は情報システムの有効活用なしには不可能である。

企業の経営企画部が注目するテーマとしてIT関連テーマが多くなってきている。

 「東洋経済統計月報」によるとビジネステーマのトップ10は
  以下のようになっている。 (出典:週間東洋経済2000.8.12-19)
   1.eコマース(BtoB,C含む)
   2.環境マネジメント
   3.アウトソーシング
   4.ビジネスモデル(特許)
   5.グループ・連結経営
   6.SCM
   7.IT
   8.Eビジネス
   9.M&A
  10.ナレッジマネジメント

多くの企業でeコマース/eビジネスが重要課題として取り上げられているが、残念ながら何のために検討しようとしているのかという目的が明確でないケースを多く見受ける。 企業の長期ビジョンや経営理念を見直しその基盤の上に企業としての経営戦略を構築しなければ、単にキーワードを取り上げて検討しようとしても結論は出てこない。

顧客サービスを向上させ、製品ライフサイクルの効率化を維持し、タイムリーで正確な情報を経営層に提供するには、既存のビジネス・プロセスを新たな能力を持ったものへと拡張するためにIT(Information Technology/情報技術)への投資を積極的に実施しなければならない。

中途半端な『変わらなきゃ!!』意識は百害あって一利なしである。半年以上も会議は踊る状態で無意味な経営改革活動なるものを実施するくらいなら、得意な改善活動を数項目でも実施した方が前進できる。今こそトップダウン型で経営活動全般を見直し、企業の将来に向けた青写真を創作すべき時期である。

< 米国企業の強さから学ぶ>

彼らの成功は、運が良かったわけではなく、緻密な戦略の上に最新技術をダイナミックに使った新しいビジネスモデルを構築した事にあることをひしひしと感じる。その中でいくつかのキーワードが見えてくる。それらが新鮮に聞こえるのも現在の米国のダイナミックさに触れ、日本の現状に不安を感じていたからではないだろうか?

1."Time to Market"
eビジネスでの勝負は、いかに早く市場に討って出てその市場の占有率を確保すること。早い者勝ち、ビジネスモデル特許もこれに拍車をかける要因となっている。
2."Vortal"
="Vertical Market Place" つまり、業界別サイバー市場(ポータル)の台頭が米国では最も話題となっている。B2Bが話題の中心となっている所以である。
3."Mobile Portal" 
PCのマイクロソフトに替わって世界を牛耳るチャンスを狙い21世紀に向けて多くの企業が参入しようしている。携帯電話や携帯端末が中心となる。PALMなどのPDAや日本のiモードにも注目が集まる。

時代は"Technology"から"Business Model"へ移っていることをひしひしと感じられる。つまり、いくら素晴らしい技術を持っていても、それを活かしたビジネスモデルへ育てられなければ成功できないのである。欧米企業と触れるとき、いつも感じることは次のようなことである。

1.ターゲットの明確さ
誰が顧客なのかを明確にしている。日本の場合はあまり明確にされないケースが多い。ターゲットとなる顧客の分析からメリットを提供するための仕組み作りが生まれてくる。日本のように商売になれば何でもやります的なアプローチはとらない。
2.コア・コンピタンス
自分たちの強みを明確にし、徹底的にその強みを強化するための仕組み作りを実施する。米国で成功している(あるいは、成功しつつある)企業の仕組みには"High-Tech & High-Touch"が活かされており、徹底的に標準化と効率化を実施したビジネス基盤に付加価値を提供する有能な人材が顧客と接点を持ちCS(顧客満足度)と成功率の向上に向け活動している。
3.アライアンス
自分たちは強みに専念し、コア以外は活用できるものを徹底的に利用する。アウトソーシングの徹底活用とも言い換えられる。"Time to Market"を実行するためには、活用できるものは活用しないと進められない。強みの相乗効果が上手く発揮されたとき成功例となっている。

eビジネスは、特殊なものではなく、基本的に「あったらいいな」を実現した(インターネット技術があったから実現できた)もので、基本はビジネスとしての企画力と実行力が勝負の世界である。その上、最近ではビジネスモデル特許もからみますます早い者勝ち("Time to Market")の世界となってきている。言い換えれば、今までは企画力と実行力で日本は遅れをとっていただけだということである。世界規模の事業を考えると言語問題はもう一つの重要な問題ではあり、日本人にはイングリッシュ・ハザードが大きくのしかかる。しかし、最も重要なのは、やる気と創造性であり、誰でもが世界のトップと肩を並べることが可能な世界だということである。思いついたら、まず早くやってみる。

必要なのは、信じる「心」と「行動力」、それにちょっぴりの「社会的な意義」であろう。
ユーザの視点に立って、「あったらいいな」を思いついたら、即・実・行・!。

第2編では、中小企業がITを上手く活用するために必要とされる重要な変革を述べていくことにする。また、BPR(Business Process Re-engineering/業務改革)推進やERPパッケージに代表される業務ソフトウエアの導入プロジェクトの実施時に押さえるべき重要ポイントを述べていくことにする。




第2編 「情報活用風土への変革」

第1編で述べたIT革命時代に必要となる企業風土とはどんなものだろうか?それは、企業の経営や業務の管理、ひいては事業そのものに、ITを充分活用できる企業風土と言い換えられる。

「情報活用風土への変革」

電子メールやグループウエア、データウエアハウスといった最新の情報システムを導入したものの、期待通りの効果を上げられない企業が続出している。社員一人ひとりが、情報の価値を判断して、それを基にして迅速に行動する習慣がない。あるいは、全社に向けて情報を発信したり、情報を共有し迅速な判断をするための意識と行動が根付かない。

例えば、中小企業においてもインターネット上にホームページを持っているケースが増加している。しかし、ほとんどの企業が会社案内をホームページに載せた程度、せいぜい採用のために情報が追加されている程度である。製造業の場合だと、部材の新規調達のためのメッセージや商品・技術の売り込みのためのメッセージが英語を含めて多国語で掲載されているケースは非常に少ない。これでは宝の持ち腐れである。

経営者たる者、ITそのものを理解しなくても、ITの利用価値を理解することは出来るはずであり、その努力はすべきである。現在ITで実現できていることのほとんどは、こうなったら良いなあと想像したことであり、急に想像もしなかったことが実現しているわけではない。ITの利用価値を知り、今まで実現できなかったビジネス・プロセスをIT活用でいち早く実現した企業が世界のトップ企業への道を歩んでいる。既存の経験や知識に惑わされることなく積極的に最新動向に耳を貸し自社への適用を模索すれば良いのである。そのためには、経営者たるもの英語に堪能でなければならない。何故なら、インターネットを通じた情報検索には英語は欠かせないからである。

中小企業の場合、経営者自らが情報活用への意欲と努力を見せなければならない。情報の迅速な伝達により俊敏な判断と行動を実践する社員を適正に評価できないようでは失格である。また、過去の経験に左右されることなく適正な判断を下せるためにも、経営者自らが情報活用による経営革新のためのビジョンを明確に示すべきである。

「IT導入前に実施すべき事」

情報システムの(再)構築を実施して行く場合、IT導入前のステップとして非常に重要と考えられるステップを以下に述べていくことにする。

1.経営戦略の決定と中長期目標の徹底(Corporate Vision & Concept):
現状の保有能力分析と経営目標から、長期目標への道筋とその戦術を決定し、社内に徹底する。基本的には、個々の社員がどんな役割・責任・権限を分担しどう行動することが期待されるのか、そして、その目標達成の結果として顧客・取引先・社員・株主にどんな良いことが待っているのか、を社内に充分認知させることを最初に実施すべきである。また、経営理念や企業哲学の復習も重要な点である。短期間であってもこのフェーズを必ず実施して欲しい。

2.経営革新(Management System Revolution):
次に、経営管理の仕組みを変革する。特に、企業の経営目標に沿った権限規定や人事制度の改革が重要である。上意下達と下意上達の促進による透明性の向上と、限りなく現場に近いところでの迅速な意志決定を可能にする仕組み作りが必要となる。
ITでは、ワークフロー、グループウエア、データウエアハウスの活用などが関係し、キーワードは業務組織の壁を取り払った会社経営視点(グローバル視点)となる。

3.事業改革(Business Architecture Re-Design):
その上で、ビジネスとして自社でやるべき事(差別化の根源)は何か?自社でしかやれない事(コア・コンピテンス)は何か?の決定。その方向に基づいた変革のための外部との戦略的提携やアウトソーシングの活用によるリソースの集中活用が鍵となる。
ITでは、インターネット技術の活用やeAI(Enterprise Application Integration)が重要となり、キーワードは拡張サプライチェーン(ESCM)の検討となる。

4.業務改革(Application Process Re-Engineering):
IT前では最後のステップが業務改革である。徹底した無駄の排除と将来の変化への柔軟性確保のため、業務手順と業務手続きを見直す。業務担当者の視点ではなく、その業務が必要な理由を分析しかつ重要度を順位付けしながら、最低必要な重要業務のみを残す。そして、何でもコンピュータ化ではなく、代替処理方法の検討も非常に重要である。
ノウハウが存在し競合他社との差別化に重要な業務とそうでない業務に区別する。非戦略業務は徹底的な簡素化/効率化と標準化を図る。この場面ではアウトソーシングも検討対象となる。また、戦略業務であっても情報システムが強みの根源でないケースも多く、その場合も非戦略的な業務と同様のアプローチをし、強みの根源となっている人材や仕組みをより活かすための支援に徹底する。情報システムが戦略業務の中核に位置づけられる場合、パッケージをシステム部品として活用できないかを検討し、無理なら開発を迅速に着手する。
即時性の必要度を充分検討し、また、リスクとのバランスを十分検討し、むやみな自動化と即時性の追求は避ける。目的とする効果をいかに迅速にかつ安価に得るかが重要である。かつてあった自動化への莫大な投資が市場変化への追従を遅らせた例のようなケースも考えられ、慎重かつ大胆な判断が必要である。
ITでは、ワークフローやERPパッケージの有効活用であり、キーワードは全体最適化(Total Optimization)となる。

企業にとって「IT革命」の目的は、「企業が継続的に存続・成長するために情報を戦略的に活用し意志決定を迅速化すること」ともいえる。そのためには、上記の4段階のステップ無くしては、画龍点睛を欠くこととなり貴重な資源を無駄に使うことになってしまう。言い換えれば、この4ステップをいかに効率よくかつ着実に実施できたかが本来目指す経営改革の達成度であり、その実施にITが道具(ツール)として役立つのである。




第3編 「業務ソフトウエアの活用」

本編では、IT活用に向けて最近非常に延びてきているERPパッケージについて特徴等を述べていくことにする。

「ますます広がるERP導入、その特徴とメリットは?」 

国内においてERP(Enterprise Resource Planning/経営資源計画)あるいはERPパッケージ(統合型業務ソフト)がマスメディアに取りあげられるようになってから既に5年以上になる。しかし、依然として部分的な導入が多く、また本来の導入効果を発揮するに至っているケースは残念ながら数少ない。今後も3年から5年間にわたりERPパッケージを含む業務系パッケージの導入が進むものと予測されている。しかし、いまだにパッケージでは企業の基幹業務システムは無理だと信じている保守的なシステム担当者も存在し、経験豊富な旧来のシステム開発を進めようとするケースもある。また、トップからの指示でとりあえず検討だけし誤った判断をするケースや、安易に進めてしまい多額の費用と工数に苦慮しているケース、最悪の場合、ERPパッケージを導入すればBPRができると錯覚させるような営業に乗ってしまい、事前準備を充分にせず迷路に入り込むケースも見受けられる。

ERPとは、Enterprise Resource Planning(企業資源計画)の略で、『企業全体を経営資源の有効活用の観点から統合的に管理し、経営の効率化をはかるための手法・概念』を意味する。ERPパッケージは、このERP概念の実現を支援する統合型(業務横断型)のソフトウエア・パッケージである。元来ERPパッケージは製造業を対象とし、販売管理・生産管理・会計財務などの基幹業務を総合的に計画・管理する機能が中心となっていた。しかし、近年は製造業のみならず多種多様な業種への対応が可能となり、導入・活用の拡大が世界レベルで進んできている。日本でも近年多くの企業における情報システムの再構築に検討され、採用を決定する企業も増加の一途をたどってきている。

競争力の根源となる企業独自の部分と世界的に標準となっている業務プロセスを上手く組み合わせることにより、経営効率の向上と将来の変化への柔軟性を確保することがグローバル企業におけるBPR成功への最大の重要点だと考えられる。今までの業務パッケージと現在のERPパッケージの相違点は何か?その疑問に応えると、まず第1番目に、経理とか在庫のような単一業務のみではなく企業運営に必要とされる主要な業務全般を機能として持っていることである。第2番目は、小規模から超大規模までの企業組織を対象とし、それを柔軟性に富む分散型のデータベースとネットワークで結ばれた情報システム群で構成可能としていることである。第3番目は、多言語や多通貨に代表されるグローバル対応が組み込まれている点があげられる。それでは、ここでERPパッケージの持つ主な特徴を整理してみよう。

<ERPパッケージの特徴>
まず第1番目の特徴は、『統合化の促進』にある。 ERPパッケージが統合型と呼ばれる所以である最大の特徴は、関連した業務部品間でのデータの自動更新(自動交換)機能があげられる。今までの企業の情報システムでは、業務単位で独立処理の最適化を目的としていたため、業務や部門を越えた情報の連絡や統合に弱みがある場合がほとんどである。特に大企業では、製品分野や業務ごとにシステム構築の時期や方針が異なりバラバラなシステムになっているケースが多い。そのため新しい製品区分や業務区分への移行を阻害する要因になってしまっている。ERPパッケージでは、取引の発生時点で関連業務のデータも自動的に更新されるようになっており、リアルタイムに事業内容を把握しその情報を基に各種の経営判断をタイムリーに実施可能にしている。

次に第2番目の特徴は、システムの『グローバル化への対応』です。言語、通貨、会計基準などの異なる多国籍環境をひとつのシステムでカバーし、かつ企業をまたがった複数場所を総合的に管理する機能がパッケージされ自動的に実現可能になっている。中小企業といえども中国などに工場を持っているのが一般的な現在、企業のグローバル化とシステムの一元化への対応にこの機能は必須であり、単に開発保守のみならず管理上のメリットも大きいといえる。

第3番目の特徴としては、『計画系機能の充実』があげられる。関連した業務とそのデータを総合的かつ一元的に管理可能とすることにより各種の意志決定支援機能やシミュレーション機能が活用可能になる。また、様々な次元からのデータの整理分析が柔軟にかつリアルタイムに実施可能となるためより精度の高い計画へ実績をフィードバックできることになる。ただし、この点では現在のERPパッケージのみでは不足であり、多くのユーザが情報検索系のツールを併用して収集したデータの活用を図っている。

さらに第4番目の特徴は、『最新情報技術(IT)の活用』である。オープンシステム/クライアントサーバ技術はもとより、インターネット(イントラネット/エキストラネット)やCALS(EC/EDI等を含む)などの最新情報技術への対応や将来の業務環境の変化への柔軟な対応が可能となっていることが大きな特徴となっている。また、従来課題の多かったシステムのカストマイズ時や保守・拡張時への対応として、オブジェクト技術の導入も今後ハイスピードで実現されつつある。

上記で述べたように、ERPパッケージには今後の情報システムに必要な重要な機能が多く含まれている。しかし、これらの大きな特徴を活かすことができる企業体質と業務手順に自社を改革することが、活用する企業側の最大の課題となる。

「中小企業マーケットへの業務パッケージの浸透」

日本の産業基盤を形成する中堅・中小企業が、人的または資金的制約の中で、いかに効率的に情報システムを利用し他社との差別化を図るかは、普遍的な課題である。しかし、そのために必要な各種の情報を提供し、中堅・中小企業に最適な情報システムモデルについて考察した情報はこれまでほとんど報告されていない。

<ユーザ環境>
中堅・中小企業における企業経営と情報化は依然として遅れている。パッケージの利用状況を見ても、財務・会計管理と給与管理が半分程度の企業で使われているのみでその他の業務についてはパッケージの活用事例は非常に少ない。何故パッケージを使わないのかの質問に対しては、自社の業務や商習慣に合わないという回答が最も多い。具体的には、出力帳票の形式が合わないが一番多く、カストマイズを依頼すると高額の費用が発生し、一からソフトを作るのとあまり変わらなくなってしまう。また、ERPパッケージを採用しなかった最大の理由は費用が高いであった。

最近では、上記の問題を解決できる柔軟なカストマイズやレポート作成機能を持ったパッケージも多くなってきた。しかし、特に中小企業でのPC活用率はいまだに低く、いかに柔軟なパッケージといえどもPCを充分に使えないエンドユーザに対しては依然として非常に大きな壁といえるであろう。

中堅・中小規模市場に名乗りを上げているパッケージも徐々にではあるが増加してきている。しかし、その生い立ちや提供のための戦略は千差万別である。また、残念ながらその特徴を理解して検討しようとするユーザに対し適切なアドバイスができるコンサルタントもほとんどいないのが現状である。システムインテグレーション(SI)にはコンサルテーションがある場合とない場合があるが、中堅企業でも 最近はコンサルタントがついていてどのように進めたら良いか進言を受けている。しかし、残念ながら基本構想が最後のシステム化に反映されていないことが多い。今後、ユーザの現状やその業界に精通しかつパッケージ関連の情報も熟知したコンサルタントの育成が望まれる。

エンドユーザコンピューティング(EUC)を根気よく続け、短期間で次々とグレードアップして部分的にでも効果を上げていくのが現状考えられる最善のやり方であろう。自動車業界・電気業界など国際競争力の厳しい業界では、パッケージを取り入れ各社固有な仕事の進め方でなく、業務の進め方まで海外でも違和感のないシステムに変わりつつある。中堅・中小企業においても、国際競争力をつけるために、海外に負けない業務の進め方に変革し、それに適したシステム構築をするべきではないだろうか。

今後の中小企業への市場展開に際し問題となる点として、1)顧客でのシステム専門家の不在、2)導入期間と導入コストの低減、3)直販から間接販売への転換、の3点が上げられる。各ベンダーはこのために、1)代理店教育を体型化かつ簡素化し、2)可能な限り標準プロセスをテンプレート化し、3)ユーザが必要部分を定義すればその業務部分を実装できる機能を充実させようと試みている。これらを上手く展開できたベンダーが今後の国内市場の中核となりうる可能性が高い。




第4編 「IT導入への成功要因」

情報活用のためのIT導入プロジェクトの推進に当たっては、重要なポイントがいくつか存在する。IT導入だからITの専門家に任せておけばよいと言う単純なものではない。

「IT導入への成功要因」

まず、最初の重要点は、「プロジェクトへの経営トップ層の関わり方と決断のスピード」である。また、「経験豊富なコンサルタントやインテグレータの選択」である。残念ながら、国内では経験者が欠如しており、現状では会社ベースでの選定は困難といえます。何故なら、会社として経験していてもその経験者がアサインされるかどうかは不明であり、中小企業にとってはこのあたりもパートナー選定時の要注意確認点となってくる。

プロジェクトに関わるさまざまな立場の人々が一体となって円滑に進めるためには、パッケージの導入経験の豊富な外部コンサルタントをユーザ側に迎えベンダーやインテグレータとの調整役等の業務に当てることが非常に有効である。とかく現場の担当者とは総論賛成各論反対や現状維持に対して意見が相反するものであり、そんな時も中立の立場でこのコンサルタントが活躍し全体の方向付けを確認しながら進めることが可能となる。この点では、通産省の進めるITSSPプロジェクトのITコーディネータ育成が待たれるところである。

IT導入の成功要因を考えるとき、ややもすると情報システム技術の側面が重要視される傾向がありますが、明確な目的としっかりした経営目標の基に企業としての具体的な改革方針を決定でき、そしてそのための最適なパッケージやインテグレーション・パートナーを選択できれば、IT導入は80%以上の成功したといえる。何を最終目的とするかによって、そのためにとるべき手順や最終的なソリューションが異なることは当然であり、このことは周知であるにも関わらずあまり重要視されていないように感じるケースが多いことは非常に残念である。

現実には個々の企業の状況や目指すことは異なり、どの方法が最適で何が重要かは違ってくる。しかし、どんな方法で何を目指そうとも『最終の目的・目標』が明確でなければ結果の評価は不可能である。この点では、企業の経営者層が情報システムへの理解をより深くし、その事業戦略への積極活用を目指す必要があると考える。

IT導入が少なからず企業の経営改革に結びついている以上、導入プロセスでの成功要因は、『企業マインドのチェンジ・マネジメントの成否』にかかっているといえる。導入フェーズに至るまでの準備段階での議論を経て段階的に理解させてきたことが、実導入の段階での安易な決定で崩れさる可能性は大きい。最後まで当初の目的目標へ向けての堅固な姿勢が重要となります。そのためにもプロジェクト実施の中で誰が真のCIO(=Chief Innovation Officer、≠Chief Information Officer)の役割を果たすかが重要である。

IT導入では情報システム関連やパッケージそのものの技術的な問題も発生するが、『全体最適化』のために企業として決断が必要な場面が多くなります。成功へのメソドロジー構築の第1歩は、プロジェクト進行中に各種の判断が必要になった場合、「何を」、「誰が」、どのくらいの「期間」で判断するのか、そして、その場合の「判断基準」を規定し、これらをプロジェクトメンバーのみならず経営トップ層をも含んで合意しておくことが非常に重要である。問題の発生を可能な限り予測し、その発生を防ぐため最大限努力をすると同時に発生した場合の解決への方法や手順を考えておくこと。上記を実施できてはじめてベンダーやコンサルティング企業が提供するメソドロジーを活用しなければならない。

<米国ユーザに学ぶ>
米国で訪問したユーザの言葉に、『当社は、情報システムの「MAKEorBUY」の議論から最終的にパッケージを利用した「BUY」を選択した。だから「MAKE」となるカストマイズは基本的に行っていない。そして、システム運用のアウトソーシングと同様に、パッケージの活用を業務ソフトウエア部分のアウトソーシングと考え期待もしている。』とあった。そして、そのユーザでの導入成功要因は?という質問に対し『企業カルチャーの変化に対するチェンジマネジメントへの取り組み方である、そこでは経営層のプロジェクトに対するコミットメントとリーダシップが成否を左右する。』と明確に語った。これは他社のプレゼンテーションからも同様のコメントがあり米国では共通して考えられているといえるのではないだろうか。また、日本がERPの導入が遅れカストマイズが多いことに対しては、『日本人は非常に保守的で急激な変化を好まないので、日本企業では海外関連企業などの外堀から埋め実績で攻めるのしかないのでは?』とのコメントもあった。

20年以上業務パッケージ活用の経験を持つ欧米企業にとっては、ERP思想を念頭に置き新しい情報システムの構築を各種のパッケージをシステムコンポーネントと位置づけ全体を形作る方式が根付いている。そして、どうしてもパッケージの活用が不可能な部分についてのみ開発する方向での解決策を講じているのである。まとめると、パッケージ市場における選択肢の増加とコンポーネント思想が、ユーザにおけるパッケージの適用率を高めていくと考えられる。

何をどのレベルで割り切るのか?既製服が現在のように多くの柔軟な選択肢を持てるようになるにはかなり時間がかかった。パッケージの種類やその柔軟性は、ベンダーやインテグレータの努力によるものであるが、ユーザが無意味な要求をし過ぎないように注意も必要であろう。この点では、米国企業にはパッケージを活用したシステム構築の経験とノウハウがあるといえる。




第5編 「まとめ」

今まで4回わたり述べてきたことは基本的なことばかりであり、実際のプロジェクト推進では人間系の問題や社内ばかりでなく取引先などの社外と問題調整など複雑なことを柔軟に対応しながら進めていかなければならない。

21世紀のビジネス環境においては、企業内のみならず企業をまたがった各種のビジネス・プロセスを統合・再編することにより、競争力のある革新的なビジネス・プロセスを持ちうるかどうかが企業の生き残り戦略上非常に重要なことである。顧客サービスを向上させ、製品ライフサイクルの効率化を維持し、タイムリーで正確な情報の提供をするには、既存のビジネス・コンピューティング機能を新たな能力を持ったものへと統合し拡張して、情報技術への投資を活用しなければならない。

その視点からは、日本の現状と欧米を中心とした市場との差異を正しくとらえる必要がある。長年にわたり基幹業務にERPを中心としたパッケージを活用してきた欧米企業が昨今投資しようとしている技術やパッケージを鵜呑みにして自社で導入しようとしても、基幹業務が依然として旧手作りシステムである多くの国内企業にとって継ぎ接ぎシステム の拡大になりかねない。

「成長続けるソフトウエア市場」

世界市場では、ERPパッケージが低い成長率予測となっているのに対し、SCM/eCRM/eCommerce製品群は非常に大きな市場の伸びが予測されている。非常に早いeビジネス市場の伸張が本来実施すべき変革から国内ユーザの視点を遠ざけてしまっているように思える。

世界におけるERPパッケージ市場は、今後5年間平均で年率5%の成長率と見られている(AMR調べ)。トップ5の顔ぶれは変わらないものの、昨年度後半に予測されていた本年以降の成長率改善は見込まれずERPパッケージ自身の変革が迫られている。

 ・ERP 年率5%成長 (トップ5で62%のシェア)
  SAP,Oracle,PeopleSoft,JDEdwards,GEAC
 ・SCM 年率40%成長
i2,IBS,SAP,Manugistics,EXE
 ・eCRM 年率36%成長
Siebel,Clarify,Oracle,Aspect,Vantive
 ・Eコマース 年率56%成長
BroadVision,SterlingCommerce,Vignette,OpenMarket

日本国内においては正確な数字は明確でないが、昨年は米国同様非常に低い成長率であったと見られる。しかし、米国と異なり、基幹業務へのパッケージ適用に大幅に遅れている国内では市場の成長率は今後5年間において高いレベルで推移すると考えられる。言い換えると、ERP導入がマスコミで騒がれる時期は終わり、浸透・拡大の時期になったとも言える。

また最近では、新しいサービス形態としてASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)での提供がERPパッケージなどにおいても検討されようとしている。しかし、業種別のテンプレートやERP以外のサービスの遅れから、世間で騒がれているほど安価にかつユーザ側とASP側双方にとって旨味のあるビジネスを展開出来るかどうか未知数な状態にある。

大企業においては浸透・拡大フェーズとなりつつあるERPパッケージであるが、中堅中小規模のユーザへの導入はあまり進んでいない。その原因としてはいくつかの要因が考えられる。1)ユーザの明確な目的・目標の欠如、2)ユーザとともに活動できる有能なコンサルタントの欠如、3)依然として高価なERP導入、などがその要因として上げられる。

ユーザ視点に立って各種のアドバイスを提供するITコーディネータの育成を急ぎ、安価にそのサービスを提供できる仕組みの構築が待たれる。この実現により、無駄なアドオン開発を防ぎ、プロジェクトの円滑な推進を支援し、最適なパッケージやインテグレータの選択を可能にすることが可能となるであろう。

企業がeビジネスへの移行速度を高めていることに対応するためにERPパッケージも大きく変貌を遂げようとしている。ERPパッケージがカバーする業務エリアとして、セールス、製品開発サイクル、MES、デリバリ、サービスなどを一貫して取り扱う方向であり、その基盤技術としてはWebを中心としたインターネット対応とデータベースの整備に焦点を当てている。言い換えれば、eビジネスを取り込んだ企業活動全体をカバーするトータルソリューション化の方向である。また、その他にもビジネスインテリジェンス(BI)分野とモバイル対応そしてワークフロー(WF)やナレッジマネジメント(KM)などに各社とも積極的に投資してきている。

「最後に」

欧米諸国の企業が数年前に対応した問題に対し積み残しの多い日本企業は、今後3年の間に大変革を遂げなければ海外企業との競争力はもとより金融ビッグバン後の国内市場さえも失うことになりかねない。現在の日本企業がかかえる情報システム関連の課題は、コンピュータの活用が始まって以来の緊迫度を持っていると言っても過言ではない。これは企業個々の問題に止まらず産業界全体ひいては日本国として至急対応策を決定し動かなければならないだろう。特に、産業の基盤を支える中堅・中小の企業に対しては早急の決定が必要である。この重要課題に対し、ERPパッケージを含む各種の業務ソフトウエアが変革の目標を迅速に達成する一助となることは間違いなく、関連企業の一層の努力が望まれる。

しつこく繰り返すが、ITを活用した経営改革は企業の経営者層のリーダーシップと不退転の意志による全社一丸となった取り組みが雌雄を決する。そして、情報システム自身よりも経営方針や業務方針の明確な立案が鍵であり、情報の活用方法や活かすための人間系の問題が最大の課題であることに充分留意いただきたい。

最後に、ユーザ企業におけるIT導入時に重要となる点を2点ほど記したので参考にして欲しい。

◆Change Management: <変化に対するチャレンジ>
−何しろ人を変えることが最重要(成功への三分の一は人間系にかかっている)。
 その他は、技術が三分の一、プロセスが三分の一と考えよ。
−新しい価値観を創造し、それへの移行を推進する必要がある。
 そのため導入に対する業務部門の討議チームを編成し、各部門のキーマンに対する
 経営層とのインタビューも実施する。
−目的と目標を明確かつ具体的にし、各々の役割をシェア出来れば半分は成功!

◆Super Users: <スーパーユーザを作ることが運用成功への鍵>
−各業務の知識経験が豊富であり、将来のリーダーとして期待される人材を選択し、
 プロジェクトのコアメンバーとして加え新しいプロセスやシステムに対する充分な知識を習得させる。
−エンドユーザ25人程度に対し1名を選別し専従でプロジェクトへアサイン、
 カットオーバ後も2ヶ月間は70%プロジェクトを支援させる。
−エンドユーザトレーニングは業務を分かっている彼らが、
 カリキュラム作成・マニュアル作成から実施までを支援する。
以上




     
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