■■ ERP最新市場動向 ■■ 

「はじめに」
 グローバル企業の場合、世界の各地に散在する工場や販売物流拠点で発生する各種のデータを効率よく処理し、その情報をもとに各種の企業判断をいかに早くかつタイムリーに実行するかが競争力の重要な基盤となります。
世界の拠点ごとに異なる情報システムを構築するのではなく可能な限り共通性を持った情報システムにすることにより、企業の環境変化に対する柔軟性とコストの削減を得ようとする目的のためERPパッケージが活用されています。

 先日、ERPパッケージを現在導入中である企業のシステム部長と話したとき、その企業としても心配が多く自分たちの選択が正しいかどうか不安でもあるといっていた。しかし、明確な指針としてその企業が持っていたのは次の点でした。
「ERPパッケージを活用しようとしている業務機能は以下の2点である。第1点目は、業界標準が必要であり標準となることにより自社にメリットがあるもの。第2点目はグローバル標準に合わして変化しても基本的に問題ないもの。少なくとも自社のノウハウや強みといえるものは業務システムそのものではなく業務全体の運用(経営・管理の仕組みや人的要因によるもの)にある。同じ仕組みを取り入れても他社では同じ効果を得られない。」といっていたのが印象的でありました。
これからも分かるように、競争力の根源となる企業独自の部分と世界的に標準となっている業務プロセスを上手く組み合わせることにより、経営効率の向上と将来の変化への柔軟性を確保することがグローバル企業におけるBPR(Business Process Re-Engineering)成功への重要ポイントのひとつだと考えられます。

「大きく延びる続けるERPパッケージ市場」
 日本国内では、昨年(1997年)がパッケージライセンス金額で約350億円、本年(1998年)は約500億円、そして西暦2000年には国内のERPパッケージ市場がライセンス売り上げで1000億円前後の規模になると予測されています。
つまり、ハードウエアからサービスまでを含むビジネス規模では1兆円規模の市場となります。ERPパッケージ市場は伸び悩んでいるとか過去のSISなどのように3年後にはERPはないという見方もありますが、将来もERPと呼ぶかどうかの問題はともかくも、日本企業においても世界各国と同様に統合型の業務パッケージが広く標準的に採用され活用されていくことは間違いないと考えられます。

 国内市場は、SAPが市場を開拓し他社をリードし大きなシェアを獲得してきていますが、2000年の段階でも50%強の市場を持つと考えられています。主要ベンダーが新製品を揃える今年度以降更なる競争が展開され、特に2番手以降では、オラクル、バーン、JDエドワーズ、SSAに新参ピープルソフトが加わり争い激化するものと予測されます。

「国内でも離陸準備を完了したSCM系パッケージ」
 米国ではERPからマニュジスティクスやi2に代表されるサプライチェーン・マネジメント(SCM)への展開が大きく進んでおり、ERPパッケージの活用がようやくこれからの日本との差は大きいと感じます。企業の情報システム全体を考えるとき、コア・アプリケーション(あるいはアプリケーション・バックボーン)としてERPパッケージを位置づけ周辺のシステムとの密結合が重要となります。そして、その上でグローバルなサプライチェーンを効率よく計画・運用・管理することがグローバル情報システムの最重要点であるといえます。

 米国のSCM研究団体であるサプライチェーン・カウンシル(SCC)は、OAGやOMGとの協調路線を指向し、業界別のプロセスの標準化を目指しています。効率的なSCMの実現のためには、プロセスの標準化のみならずECなど各種のIT関連技術の取り込みやパッケージ間や各種業務システム間インターフェイスの実現が必要となります。本年末には、SCC日本支部の設立も計画されており、国内においても企業や国境を越えた取引に関しての議論がさらに広がるものと考えられる。

「最新IT技術をサポートするERP」
 どのベンダーも新バージョンの開発が激しくユーザニーズへの対応と活用メリットを強調しています。
特に、インターネット/WWWやJAVA対応、プラットフォームとしてはWindows/NT、そしてオブジェクト技術の積極導入などが充実してきています。
本年中には主要パッケージのNT版もほぼ出揃い、NT環境でのERPパッケージの活用に弾みがつくと考える。昨年は25%程度であった出荷ベースでのシェアが、本年は40%以上に拡大するものと予測される。

「始まったERP関連周辺のパッケージ戦争」
 欧米諸国と日本との環境の差が最も大きくでているのはパッケージの選択肢の数です。これは、補完ソフト市場の成熟度の差であるともいえます。例えば、計画系パッケージ・EDI関連パッケージ・人事管理関連パッケージ等々に代表され、固有業務に特化しシェアを持ちERPパッケージと併せて活用可能になっているパッケージが欧米では数百あります。
これらはカストマイズやアドオン開発の削減にも大きく貢献しているのです。国内でも、今後はこれらの補完パッケージの日本語化や導入と同時に、日本独自の補完パッケージが多く開発されることを期待します。

 また最近では、サプライチェーンマネジメント(SCM)やセールスフォースオートメーション(SFA)関連のパッケージベンダーとERPベンダーとのタイアップやM&Aが進んでいます。そして、今後もますますその傾向が顕著になるものと予測されます。

「システムコンポーネント化」
 20年以上業務パッケージ活用の経験を持つ欧米企業にとっては、ERP思想を念頭に置き新しい情報システムの構築を各種のパッケージをシステムコンポーネントと位置づけ全体を形作る方式が根付いています。そして、どうしてもパッケージの活用が不可能な部分についてのみ開発する方向での解決策を講じています。まとめると、パッケージ市場における選択肢の増加とコンポーネント思想がユーザにおけるパッケージの適用率を高めていくと考えられます。

 現在多くのERPベンダーがオブジェクト技術を取り入れようとしています。パッケージらしさの最重要点は、パッケージ自身のバージョンアップ対応機能です。標準的に使われれば使われるほど表計算やワープロのようなツールでさえバージョンアップに対する問題が大きくなってきます。まして、基幹業務システムにおいては最新バージョンへの対応を無視できません。
さもないと、新システムが柔軟性のない寿命の短いレガシーシステムを大金をかけて構築したことになってしまいます。カストマイズが少なくてすみ、かつカストマイズ部分が新バージョンへも保証される仕組みを持ったパッケージの選択がこの点では重要です。この機能を充分に持った製品は現在では2〜3のパッケージだけですが順次拡大していく方向です。

「アプリケーション統合へのステップ」
 本年から製品が出荷が開始された新しい分野の製品として「アプリケーション・インテグレータ」と呼ばれる種類のソフトウエアがあります。これは、色々なパッケージ間での情報交換を目指す仕組み(インターフェイス)を作ろうという目的の製品であり、主要ベンダーの多くもパートナーとして参画しています。ERPパッケージとSCM(サプライチェーンマネジメント)パッケージ間やERPパッケージ間でのインターフェイスをとり、複数パッケージを使うユーザやここのパッケージベンダーが個別にインターフェイスを開発することを避けることを可能にします。この分野の代表格がクロスワールドであり、結合の視野にはメインフレーム上のレガシーシステムも含んでいる。欧米企業のみならず日本企業においても、海外拠点をはじめとして複数のパッケージを現在でも活用しており今後もその傾向は進むと予測され、この種の製品動向や米国のOAG(オープンアプリケーショングループ/共通インターフェイスの開発を目指す米国の団体)などの活動状況にも注目すべきでしょう。

「エンドユーザによる導入と中小企業への展開」
 今後の中小企業への市場展開に際し問題となる点として、1)顧客でのシステム専門家の不在、2)導入期間と導入コストの低減、3)直販から間接販売への転換、の3点が上げられる。各ベンダーはこのために、1)代理店教育を体型化かつ簡素化し、2)可能な限り標準プロセスをテンプレート化し、3)ユーザが必要部分を定義すればその業務部分を実装できる機能を充実させようと試みている。これらを上手く展開できたベンダーが今後の国内市場の中核となりうる可能性が高い。

 特に、中小企業への展開に際しては代理店となるインテグレータにおける人的能力の向上が急がれる。企業の経営者層や業務部門のキーマンの要求を理解しつつ、将来的な企業の方向性に基づいたシステムインフラのあり様を整理し、提案の企画・説得ができるコンサルタントの養成が鍵となってくる。また、中小企業への導入を考えるとき、リモートコントロールでのシステム運用や共同運用センター、アウトソーシングなど運用面でのソリューションも検討されていなければならない。

「最後に」
 ERP研究推進フォーラムで実施した昨年9月と本年6月の海外視察を通じても、欧米諸国と日本のパッケージ市場とパッケージ活用における隔たりが大きいことを改めて感じました。何をどのレベルで割り切るのか?既製服が現在のように多くの柔軟な選択肢を持てるようになるにはかなり時間がかかりました。パッケージの種類やその柔軟性は、ベンダーやインテグレータの努力によるものですが、ユーザが無意味な要求をし過ぎないように注意も必要でしょう。この点では、欧米企業にはパッケージを活用したシステム構築の経験とノウハウがあるといえます。

 BPR/ERPとも企業の経営者層のリーダーシップによる全社一丸となった取り組みが雌雄を決します。そして、情報システム自身よりも経営方針や業務方針の明確な立案が鍵であり、パッケージ自体の問題よりも、活用方法や活かすための人間系の問題が最大の課題であることに充分留意いただきたい。
日本ではまだまだ課題の多いERPパッケージですが、今後急速に活用に耐えうる状態になると考えられます。と同時に、パッケージ選択の面でもようやく主要パッケージが出揃ったところなので、今後のベンダー間の競争がユーザにとっての選択肢を増やし、機能拡張やサービス向上の面でも大きくプラスになっていくでしょう。




     
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