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(Vol.193)


============================= CONTENTS =============================
【コラム/『!原発再稼働に覚悟はあるか?』】       <寄稿>
   想定が甘すぎる、想定外も多い、どうする原発???  公江 義隆
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■=== 【コラム/『!原発再稼働に覚悟はあるか?』】    <寄稿>

                        公江 義隆
               JUAS/ISC、もとITコーディネータ
                もと武田薬品工業(株)情報システム部長

福島原発事故から4年、汚染水問題は”under control”からほど遠い状況、
土壌の凍結による地下水流入防止も失敗し先の目途はたっていない。
放射能汚染のため安心して住めない地域は未だに広範に及び、多数の住民は
我が家に戻れず、除染や瓦礫の撤去で出た放射性ゴミは空き地に野積み状態、
日本はかなりの広さの領土を実質的に失った状態が続いている。
使用済み燃料の最終処理の方法や場所は半世紀経た今でも目途は立たず、
「下水処理設備のない水洗トイレ」はあと数年で溢れる状態だ。

しかし、政官財の責任あるべき立場の人たちは「安全性」の判断に触れる
ことを避け、何事もなかったかのごとく、再稼働の結論ありきでズルズル
原発の復旧を進めているように見える。
一方、国民は「(経済問題は別にして)原発絶対反対」と「(安全性のことは
気になるがよく分からぬ。しかし)景気が悪くなるのは困る」と云う接点の
ない意見に2分されたまま深まらない。
 
そんな中で、4月福井地裁が再稼働準備の進む関西電力の高浜3・4号機
(福井県)の運転差し止めの仮処分決定(*)を行った。
いずれ高裁、最高裁に持ち込まれるであろうが、判決文をザッとでも
是非一度ご覧いただきたいと思う。法律家の文章故にまどろこしく感じられる
と思うが、原発の構造や考えるべき問題のイメージが何となく掴めると思う。 
 
*:判決文:
 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85038&hc_location=ufi  
*:その解説:
 http://bylines.news.yahoo.co.jp/watanabeteruhito/20150416-00044872/ 

追って、九州電力の川内原発1・2号機(鹿児島県)に対する同様の請求に
対しては、鹿児島地裁は申し立てを棄却し、司法も判断が2分された。 

国民も「よく分からない」では済まされない段階になった。
双方のリスクに真剣に向き合い、いずれにせよ覚悟が必要になる
いずれかの途を選ばなければならない。

また、IS(イスラム国)など昨今の中東情勢などから、「石油や天然ガスの
供給に対するリスク」は1レベル高くなり、この問題も対岸の火事では
済まない状況になった。しかし、エネルギー安全保障問題と称して電力の
ベストミックスばかりが問題にされるが、消費エネルギーに占める電力の
割合は1/4である。残りの3/4に対する議論は何故かされない。

★「誰も安全の確認をしていない原発が、責任不明のまま再稼働する」

政府は昨夏、再稼働に厳しい条件・考え方をとる原子力規制委員会委員2人を
再任させなかった。(報道によれば異例なケースらしい。内閣法制局長官を
変えて憲法解釈を変え、集団自衛権容認を閣議決定するプロセスと相似た
手法と感じる。)

首相は「世界一厳しい日本の安全基準」と云い、「安全が確認された原発は
再稼働させる」と言う。しかし、原子力規制委員長は「“世界一厳しい
環境条件”を考慮した基準」という。厳しい環境は地震や津波のことだろう。
また「規制委員会は規制基準を満たしているか否かの審査・判断をしている
だけで、安全と言っているのではない」と国会答弁などで度々言う。
なお火山噴火の懸念を訴える火山学者の意見には耳を貸さなかったようだ。 
 
一方で専門家と言われる人たちからは「何事にも100%ということはない。
それを求める再稼働反対は間違っている」といったニュアンスの発言がされる。

原子力規制委員会の事務局の責任者である規制庁長官はTVの番組で
「安全性の責任は事業者(電力会社)」、「事業者の安全文化が重要」という。
それで「安全は担保できるのか・電力会社に安全文化は育っているのか」
と問えば「そう出来ないといけない」と言う。

電力会社はダンマリを決め込む。

立地自治体の議会は地元経済界などからの陳情を受け、早期再稼働の決議をし、
首長は「議会の決議を重く受けとめ、再稼働を容認する」という一方で、
国に対して「“国が前面に立って問題について国が責任を持つ”と説明して
ほしい」と要請をする。国は明解な回答を避け避難計画の評価確認もしない。
責任を持つと云っても出来るのは今福島でやっている程度のことだ。
(国にも責任がとれないような問題なのだ) 

政府は「規制基準合格=安全の確認」としたいようだが、このままでは
実質的に「誰も安全の確認をしていない」原発が責任所在不明のまま
再稼働することになる。

★「日本の原発は、世界一安全なのか?」

政府は「世界一厳しい」という言葉から「世界一安全」を国民にイメージ
させたいのであろう。しかし世界一厳しいのは、規制委員長の云うように
地震・津波・火山噴火など日本の自然環境だ。
これを考慮した耐震性や防潮対策などの基準が厳しくて当然で、それによって
世界一安全になるわけではない。本当に「何がどのように世界一・・・」なのか
丁寧に説明することになっていたはずだが・・・。

先ず致命的なのは、規制委委員会が審査するのは設備だけで、自治体に丸投げ
した住民の避難計画は審査しない”という現状だ。

専門家の云うように100%の安全ということはないから、事故の起こる可能性は
ある。「緊急時の避難計画が整っていなければ稼働許可は出さないというのが
世界の常識」の筈だ。

関心ある方はGOOGLE RARTH などで原発周辺を一度見てみていただきたい。
原発の近くを通る一本道しか避難路がないような地域も少なからずあるし、
移動が困難な病人や高齢者など、逃げられなかった人のために準備される
一時的避難所(シェルター)の多くは海抜2〜3mの既存建物に空気フィルター
を増設した程度のものらしい。

ここには国の基準はなく自治体任せだ。

活断層と地震強度や津波に関わる条件は、以前に比べれば僅かながら引き上げ
られた。しかし、現実問題として地震の予知(規模、場所、時期、・・・)は
出来ないというのが現在の知見の水準の筈だ。
今までに度々、その時々の想定を上回る規模の地震が発生している。
今までと同じ考え方で最新の知見を取り入れたといって、数値をいじった程度
だけではだめなのだろう。

例えば、社会システムの分析にレトロスペクト分析と云う考え方がある。
「計画では・・について、・・のように考え、・・になると考えたが、
実際の結果はそうならなかった。それなら、今、・・のように考え、・・なる
と考えることは、実際にはどうなるであろうか?」と云った考え方である。

なお、「地震の想定は甘くても、設計には余裕を見ているはず」と云う人が
いるが、設計余裕は本来、実際と理論のギャップや設計計算上の誤差、材質の
バラつきや経時変化、溶接など施工上の出来栄えによる強度低下等をカバー
するためのものであって、安全上の余裕にはならない。

設備面では、外国では行われているのに日本ではやらないことが多々ある。

例えば、溶け落ちた燃料を受け止めるコアキャッチャー(*1)、
ベントの際に放射線の放出を防ぐフィルターの設置(*2)は
PWR型原子炉では当面やらなくてもよい、
福島事故では現場の対策センターとなった免震棟やテロ対策の一環としての
代替制御室などもそのうちに作ればよいということになっている、等々・・・。
しかし、自然災害もテロも企業の都合とは無関係に発生するものだ。

*1:日本の既存の原発に取りつけるのは困難として規制基準から除外された。
  今回取り入れたという日本のバックフィット(過去の設計・施工分にまで
  遡及する)は出来るものだけ? 電力会社の負担の大きいものは基準に
  入れないことで形式的にバックフィットを実施している形にした?
*2:欧米の先進国の多くはチェルノブイリ事故やスリーマイルズ島の事故を
  契機に設置済。設置していないのは、ウクライナ、スロベニア、ルーマ
  ニアなど旧ソ連圏、台湾、日本、インド、メキシコなど。

また、“シビアー・アクシデント(過酷事故)”やテロ対策の「基本方針」には、
「米国等と同様に可搬設備での対応を基本とし、恒久設備との組み合わせに
より信頼性をさらに向上(継続的改善)」とある。
つまり、時間のかかる設計の見直しやお金のかかる既存設備の改修には
手を付けずに、消防自動車(ポンプ車)や電源車など福島の事故時に緊急動員
して使用したものを前もって逐次準備してゆく、つまりはそんな事らしい。

★「疑問の多い、安全確保への考え方」

「同じ籠に卵は沢山入れない(1つが割れるときには他の卵も割れる)」は
安全確保の常識だ。まず同じ場所に複数(福島第1では6基)の原発
プラントを並べて作る立地そのものが問題の筈だ。再稼働の申請も2基
ワンセットでと云うのは電力会社の経済性優先そのものであろう。

過酷事故に向かう原子炉は数時間でメルトダウンする。

同時進行する複数の原発の事故対応で、個と全体の状況を適確に捉え、
適切な対処の判断・指示を出すことは優能な管理者でも極めて困難である
ことは、福島の事故に関する政府や国会の事故調査委員会の報告や種々の
メディアの取材レポートを少し見れば明らかなはずだ。
1基の原発がコントロール出来ず大量の放射能を放出することになれば、
周辺の全ての原発に人が近づけなくなる。やがて全ての原発がコントロール
を失い大量の放射性物質が放出されることになる。

福島の事故では事故が拡大し先が見えない中で、政府が依頼した最悪ケース
(*)の検討に対する近藤俊介原子力委員長(班目原子力安全委員長では
ない)の報告書の表紙には、「3000万人避難計画」と書かれていたと云われる。

*:定期保守中の4号機の燃料プールには発熱量の大きい使用中、使用済の
  燃料棒が多量にあり、プールの水が蒸発して無くなれば、あるいは
  余震で水素爆発で壊れた建屋の燃料プールの底が抜ければ燃料棒が
  メルトダウンして、多量の放射性物質を放出し、その影響は首都圏を
  含む東日本全域の及ぶ可能性があるとされた。
  この最悪事態が避けられたのは、水素爆発で4号機の建屋が吹っ飛び
  むき出しになったが故に、燃料プールに放水車で外部から水が入られた
  からである。その4号機の水素爆発の原因は3号機で発生した水素ガスが
  排気ダクトを逆流して4号機建屋に入り込んだためと云わる。
  何ともお粗末な排気系の設計(または施工)故であったが、今回は
  それが幸いした。
  こんなお粗末な部分が他の部分にもあるかもしれないが、再稼働の審査で
  「こういう設計問題箇所が他にないか」を検討したという話は聞かない。

ここでは詳細に述べないが、個別の機器や技術の問題では、過酷事故に向かう
中で、開かなかったベント弁、開かなかった(圧力容器)の圧を抜くための
SR弁(消防ポンプからの注水が出来なかった)、水漏れする復水ポンプ
(原子炉に冷却水が十分入らなかった)、原子炉水位の測定が出来なかった
水位計等々、必要な時に機能しない構造の機器やフェール・セーフの仕組み
など、放射能漏れを防ぐという原発固有の問題対策として設計された機構が
過酷事故に向かう中で機能しないどころか、逆に問題を作るといった矛盾を
起こした(*1)。

僅か数年間ではあるが、化学プラントの設計に携わった技術屋のタマゴ
(筆者)の目にも、安全性対策は丹念に考えられているように理解できる
(*2)。しかし、それらの多くは「どこかの機器やプロセスで不都合を
生じても、それ以外の部分は正常」ということが暗黙の前提(想定)で
成り立っている。
つまり、個々の機器の故障や操作ミスなど内部に起因するトラブルには
有効に機能するが、多数の機器やプロセスが同時にあるいは連鎖的に影響を
受けることが多い外からの脅威に対しては問題が残る前提・方式と映る。

元の設計段階まで戻って評価や検討が必要な問題なのだが・・・・、やるのは
大変だ。最も心配なのは、阪神淡路大震災(*3)のような震度7クラスの
上下動と横揺れが同時に来る直下型地震だ。

*1:参考:NHKスペシャル“メルトダウン取材班”「メルトダウン連鎖の
  真相」講談社など 
*2:参考:神田他「原子力教科書―原子力プラント工学」オーム社・・・
  原子力発電プランの機器の構造・プロセスの概要などが説明されている
  教科書(専門書)など
*3:参考:動いた活断層の上にあったわけでもない自宅で、壁に残った
  キズから推定すると、テレビは40p放り上げられて空中を飛んで2mほど
  先に転がっていた。空中に浮く=重力加速度(981ガル)以上の
  加速度による力が加わったことになる。
  動的には、振動の位相次第で次の瞬間この2倍の力で床に叩きつけられる。
  今の基準は甘すぎないか大変気になる。

★「電力会社と安全文化、企業文化は簡単には変わらない」

3年半前、関西電力大飯3・4号機の再稼働に際して、大阪の自治体関係者と
メディアに対し経産省が作った緊急対策に基づく現地の準備状況を公開した。
そのTV画像を見て驚いた。
数台の電源車が急傾斜の崖の下の道路に整列して置いてあった。「同じ籠に
複数の卵を入れている」ことに気が付いていないのだ。
「役所の審査にパスさせること=安全」がこの会社の安全文化になって
しまっていると思った。

そして,先般再稼働の手続きが進む高浜3・4号機に続いて、稼働40年を
超えることになる1・2号機の再稼働申請を提出した。
小さな籠に卵を4つ入れようと云うのだ。
それも割れかけの卵・・・中性子線でスカスカになり脆くなった原子炉
(圧力容器)の発電所だ。企業文化は簡単には変わらない。

★「おわりに」 

20世紀の工業製品には、例えば飛行機のように、幾多の犠牲を出した事故や
失敗から得られた知見や教訓を生かしてその完成度を高めていったものが
多くあった。しかし、(不謹慎な言い方になるが)飛行機の場合の犠牲者は、
多くの場合1〜数10名/件以内であった。(最大はボーイングのジャンボ機の
日航御巣鷹山事故である)
 
原発はこのような形のアプローチに耐えられるものだろうか???

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