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(Vol.151)

============================= CONTENTS =============================
【コラム/『大飯原発の再稼動をめぐって・・・生き残る安全神話』】 <寄稿>
  各種情報に対する疑問に少しでも答えるために      公江 義隆
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5月5日の泊原発定期検査入りで、日本の原発はすべて停止します。
政府はなんとか原発ゼロ状態を避けようと、定期検査を終えた大飯原発の
再稼働にやっきになっているようです。今頃になって新安全基準を作りました
が、まったくの付け焼刃。根本的な地震対策への言及も乏しく“再稼働ありき”
であるように感じられてなりません。

フクシマの事故収束はおろか原因究明も現状把握もできないままに、
なぜ再稼働を急ぐ必要があるのでしょうか?

すでに日本の原発54基中53基が停止しています。
いま慌てて一つ稼働させても、電力供給に大きな差がでるとは思えません。
せっかくの機会なのですから、原発ゼロ状態で夏を過ごして、どんな影響が
出てくるか試してみれば良いのでは?
その上で国民全体の問題として、電力問題の方向性(発電方式、供給方法)を
決めればよいのです。

再稼働を考えるなんて、それからだって遅くはありません。
もしかしたら、「原発がなくても大丈夫なんだ」と皆が実感してしまうことを
怖れているのでしょうか?

ずっと「原発がないと電気が足りなくなる」と言われてきました。
しかし、そうでないことは今の稼働状況がすでに証明しています。
推進派にしてみれば「このうえ原発ゼロ状態が到来してしまっては、
誰の目にもウソがあきらかになってしまう・・・
そうなったら、ますます再稼働が難しくなってしまう・・・
それだけはなんとしても避けなければ」ということなのでしょうね。

そんな中、公江さんから第4弾として文書を送っていただきました。
気になる問題ですので参考までに今回も配信させていただきます。
(たいへん長文だったので、号外として配信します)

間違いのご指摘はもとより、有益な追加情報等があれば御連絡いただければ
と考えます。宜しくお願い申し上げます。

★コレを見たら関西の方も驚くでしょう
 <大飯原発を中心に福島事故の汚染地図を重ねた図>
  http://www.jca.apc.org/mihama/fukushima/fig_201111_02_01.jpg

 これは福島第一原発による土壌汚染地図と大飯原発周辺の地図を単純に
 重ねあわせたもので、地形や風向きを考慮したシミュレーションでは
 ありません。しかし、そこで事故が起こればどれだけの地域に直接的
 影響が及ぶのかをイメージできる貴重な地図だと思います。
 ちなみに福島第一原発と東京との距離は、およそ230Km。大飯原発と
 京都との距離は、およそ60Kmでしかありません。この距離は福島第一
 原発と福島市の距離とほぼ同じです。
 ・『美浜の会』 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
   http://www.jca.apc.org/mihama/

■===【コラム/『大飯原発の再稼動をめぐって・・・生き残る安全神話』】<寄稿>

                 公江 義隆 y-koe@air.linkclub.or.jp
                JUAS/ISC、もとITコーディネータ
                 もと武田薬品工業(株)情報システム部長)

「原発事故発生以来、乳幼児を持つ親は知的レベルを試されているような気が
します。・・・政府の言うこと、国内のメディアの情報を鵜呑みにしていいのか?
それとも自分自身で原発のしくみ、放射性物質の危険性、その限度値、等々
調べて我が子を守るのか・・・」。嘗て職場の部下であった人から貰ったメールの
中の1節である。
こんな想いをバックに、昨年来、幾つか資料整理をしてきた。
これもその1つである。

大きな衝撃をうけた当時、この大きな不幸をバネに新しい日本の再生が始まる
ことを期待した。しかし、1年余経った今、旧態依然たる日本への回帰が
始まっているように思える。
下記の写真を見て、今一度福島で何が起こったか思い起こして頂ければと思う。

 ★爆発直後の福島原発の写真(2011・3・20):
  http://cryptome.org/eyeball/daiichi-npp/daiichi-photos.htm

■何としても原発の早期再稼動をしたい野田首相
     (本原稿作成時の4月10日までの動き)

野田首相は関西電力・大飯原発3、4号機の再稼動に踏み切ろうとしている。
これまでの政府の方針は「“安全が確認されたもの”については再稼動を
認める」だった。
しかし、政府と国会の事故検証委員会は共に調査途上であり、原子炉の中が
どうなっているかさえ把握できていない現状では、安全の確認も十分な対策の
設定も不可能なはずだ。3・11後、多くの国民が期待していたのは、
原発政策や安全性に対する抜本的な見直しだったと思う。

野田首相は質問されれば「安全が最優先」と言いながら、早くから「手順に
従い」「政治決断」「地元の説得」といった発言をしてきた。
最初から「何がどうであれ再稼動」と決めていたようだ。
官房長官は「原発再稼動に同意を得る自治体は、従来どおりの「地元」、
原発から半径10Km内の自治体とする(つまり大飯原発では原発のある
“おおい町”と福井県に限る)」と発言した(*)。

更に後日、「同意は法的に必要ではない(再稼動に同意は必要ないという
意味)」とまで踏み込んだ発言をした。数日たって首相も「法的に必要では
ないが、理解を・・・」といった言い方をするようになった。
「国の専管事項」といった言葉も出てきた。

昨年来、「現在の安全基準には瑕疵がある」、「安全性評価には1次テスト
では不十分」と発言してきた原子力安全委員長は、ストレステストの検討
結果いついて「われわれ(原子力安全委員会)は、安全性の確認を求められ
ているのではない・・・」と判断を避けた(後述の斑目語録参照)。

首相は暫定的な安全指針の作成を経産省に急遽指示した。

驚いたことに僅か2日後に新基準が出てきた。
しかも、そこからは「暫定」という言葉が無くなっていた。
内容は既に出来ているか、簡単に出来ることだけで、お金や時間のかかる
防波堤の強化や、事故発生時に現地の指揮を執る場所となる免震棟などは
実施の姿勢を示せばよいことになっていた。官房長官は「これを他の原発の
再稼動の判断にもする」と発言した。この間、前官房長官として地獄を
見てきたであろう経産相の発言はブレにぶれた。

科学的に判断すべき「安全」の問題を、「安心」問題に摩り替えて
「地元の理解」に責任を転嫁する流れにしようとしているようだ。

以下にこれらの関連事項の経緯を整理してみる。

※<参考>
政府は福島第一原発事故を受け、新しい規制案の中では、原発の防災対策
重点地域:EPZを、従来の半径8~10Km圏内から30キロ圏内に拡大して、
名称を緊急防護措置計画範囲:UPZと変えた。
福井県にある大飯原発のUPZには滋賀県の北部、また近畿の水道水源で
ある琵琶湖も含まれることから、同県の嘉田知事は再稼働手続きの「地元」
に該当するとして政府の説明を求めていた。
しかし、藤村氏は記者会見で「再稼働と防災の30Kmとは内容的に違う」と、
嘉田氏の要求を拒んだ。福島の事故では30kmどころか70Km離れた
福島市でも平常時の400倍を越える放射線量を記録した(これは子供に
甲状線被曝防止のためヨウ素剤の服用を検討すべき水準だが、法律上、
配備はされていなかった)。米国政府は自国民へ80km以遠への避難を
勧告した(当時には議論があったが、後日明らかになった放射能飛散分布図
などを見れば、この勧告は正しかった)。
後日、京都府がSPEEDIを使い大飯原発の隣にある高浜原発が事故を起こした
場合の放射線の拡散のシミュレーション結果(*)を発表した。
季節により風向きが大きく変わるこの地域では、汚染は隣接の京都府、
滋賀県に留まらず、大阪府、兵庫県、岐阜県に及ぶ。
 http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/shobo-01/1332410430472.html
 (上記HP中の、資料6,7-1,7-2参照)

■政府の危機管理体制の見直しがない

福島原発事故では、電力会社、政府、自治体、共に事故をコントロールし、
住民を護る必要な法整備や体制の準備が全くできていなかったことが
明らかになった。

地震・津波からこれほどの原発事故を引き起すことになったその責任の
大半は、客観的に考えれば歴代自民党政権にあるであろう。
安全神話を広め、それを前提に設定した体制やルールは実際には殆どが
機能し得ない不適切なものであったからだ。
最大の間違いは2001年、行政改革・省庁再編に名を借りて新設した
原子力安全保安院であろう。

しかし、事故発生後、原発の風下の浪江町や飯館村を始め、多くの住民に
避けることが出来たはずの放射線被曝をさせてしまったのは民主党政権だ。

そしてその見直しの責務は、この不備だらけ、間違いだらけの原発規制の
問題点を身にしみて知った当時の官房長官(現経産相)、首相補佐官
(現環境大臣)を抱える現政権のはずである。

それではその後実質的に何かが進んだであろうか?
答えはNOだ。

以下に幾つかの課題をあげてみる。
いずれも事故が起きてから泥縄では旨く行かない問題だ。

・当時は、マスコミをはじめ多くの人が「一国の首相が・・・」と大声で
 批判してきた「菅前首相の東電への乗り込み行ない事故現場からの
 東電の撤退阻止」は、これが無ければ首都圏を含め日本の東半分が人の
 住めない場所になる可能性があった。
 このことは事故検証調査によって明らかになりつつある(*)。
 しかし、この「現場作業を行う人の生命を危険にさらすことを命じる
 行動」には、自衛隊員などとは異なり法的な裏づけはない。
 被害が出ても救済できない。新しい法律が必要だ。
・4月1日発足を目指していた原子力規制庁を作る組織改革案は、
 消費税論義に明け暮れする中で浮いたままである。
・放射能、停電、通信遮断、交通遮断で全く機能しなかったオフサイト
 センター(現地対策本部機能)はどうするのか?
・政府が東電に乗り込んで、ようやく機能した政府対策本部はどう考える
 のか?
・福島では8名いた現地滞在の原子力安全・保安院の職員が早々に逃げ
 だした。政府は現地情報の入手が出来ず、東電本店経由のあやふやな
 情報で右往左往することになった。政府の現地駐在職員の職責をどう
 明確にするか(敵前逃亡は昔なら銃殺だが!)?
・全く機能しなかった電力会社の本店・本社(*)の危機管理機能を
 含め、関係者の責任・権限、情報伝達方法や、その法的裏づけは
 どうするか。そもそも電力会社の経営者に危機管理能力が期待出来るか
 (電力供給に比べ余りにも安全問題に対する意識が低い。
 これは計画停電の説明の記者会見でも、事故の説明はつけたしの
 感じであった。経産省も同じだ)。
・大飯原発をはじめ関西電力の原発は事故を起こせば放射能は、
 京都・大阪・神戸をはじめ近畿地方の飲料水の水源である琵琶湖に
 達する。他でも夫々問題があろう。
・大飯原発のすぐ西隣には、日本海の防衛を担う海上自衛隊の舞鶴基地
 がある。北朝鮮のミサイル発射に対処するイージス艦「あたご」
 「みょうこう」の母港である。玄海原発と佐世保基地の関係も同様。
・今回の事故で原発がテロに対して全く無防備であることが露呈した。
 現在の原発は構造的に全くテロに対する配慮はされていない。
 運転を止めた状態でも、冷却の必要な燃料棒を多数抱える全国の54基
 全ての原発や再処理工場、また核物質保管施設などは起爆装置がついた
 核爆弾と同じだが、現在の法律では防御不可能だろう。
・放射線量のモニタリング機能、能力が非力であることが明確になった。
 停電や災害にも機能し続けるモニタリング・ポストの増設(全国では
 少なくとも数1000箇所は必要)や巡回監視体制の抜本的強化が必要だ。
・被爆者の検査・診療体制、食品などの検査体制・・は現在大変非力で
 ある。
・同じ場所に複数の原発があることが、事故時の対処能力や、放射能汚染
 により正常な原発に近づけなくするなど、危険を大幅に増幅することを
 認識したはずだが、相変らず大飯原発では3,4号機の2機の稼動を
 狙っている(安全神話から脱却ができていない)。
・・・など等。

※<参考>
・(一般財団法人)日本再建イニシアティブ「福島原発事故独立検証委員会
 ―調査・検証報告書」  出版元:ディスカヴァー 
 (政府、企業などから独立した市民の立場から進める必要があるとの認識
 で行なわれた事故調査・検証結果の報告書。30名の若手・中堅の科学者、
 技術者、研究者、実務家、弁護士、ジャーナリストが資料集めや関係者
 へのヒアリングを行い北沢宏一氏、野中郁次郎氏など6名の委員の責任で
 纏められた。
 冒頭にこのプロジェクトの責任者、北沢委員長メッセージに次のような
 内容がある“・・・政府上層部が長期にわたり強い危機感を抱いていることが
 分りました。事態が悪化すると住民避難地域は半径200kmにも及び、
 首都圏を含む3000万人の避難が必要になる可能性もありました。
 原子力委員会の近藤駿介委員長らはこうした見通しを「最悪のシナリオ」
 として検討し、菅首相に報告していました。
 ・・・唐突に見えた菅直人首相の福島第一発電所の訪問や「東電撤退は許さ
 ない」とした東電本店での演説・・・当時官邸が抱いていた「このままでは
 国が持たないかもしれない」という大きな危機感の上に初めて理解される
 ことです。”とある。
・大鹿「メルトダウン―ドキュメント福島第一原発事故」講談社
 (公表資料と、首相や関係大臣、政府関係者、東電関係者〔匿名〕などへ
 の独自取材による事故の記録。事故直後に「何が起こっていたか、
 関係者が何を考えていたか。何をしていたか」を中心に記述―内容ごとに
 情報源が個々に明示されているから信憑性はかなり高いと思うが、
 実態はこれまでのマスコミ報道内容とは大きく異なる。)

■全く準備が出来ていない周辺自治体の体制

今回の事故結果を踏まえ、政府は従来の半径8〜10KmであったEPZ
(防災対策重点地域)を、名称をUPZ(緊急防護措置計画範囲)と変え、
(今回の放射能の飛散分布をみればこれで十分か疑わしいが)半径30Kmに
することを考えている。

しかし、問題はここで新たに対象となる全国120余の自治体、700万人の
住民には、当然のことながら、現在、事故対処の体制は全く出来ていない。

例えば、大飯原発の地元、従来からのEPZ対象自治体である“おおい”町
でさえ、周辺住民に対し指定された緊急避難所は原発から1.5kmの海辺
の学校、緊急時指令本部は海抜1.8mの海辺近くの建物らしい。
避難ルート、原発への物資輸送路は約10kmの山林を切り開いた土砂崩れの
起こる崖道と海岸線沿いの道路で、その先には冬季凍結する約600mの海に
架かる橋がある。(例えば、Google→地図→福井県大飯原発→航空写真
またはEARTHで検索してみて頂きたい)。

ましてや、今回の事故の教訓から、新たに対策を迫られる自治体では
ゼロからの検討になる。府や県は力はあるにしても、市町村レベルでは、
例えば放射線防護の専門家の確保もままならない。
お金も無い。また放射線の拡散分布を予測するSPEEDIの端末を関係自治体に
設置しなければならない。

なお、SPEEDIに過大な評価をする人が多いようだが、実際に提供される
データ(※)を見ておられるだろうか?。

地域が策定する避難計画の検討や実施には有効だが、時々刻々変わる風向き
によって変わる放射線量の分布を見て、少なくとも避難する住民がリアル
タイムの判断に使えるものでは無いだろう。

また事故時にこのデータを参考にきめ細かく地上での放射線量のモニタ
リングが必要になるはずだ。
なお、現在この端末があるのは原発設置の府県だけだ。
事故・停電時でも作動する放射線量測定のためのモニタリング・ポストを
全国で少なくとも数1000箇所と巡回線量測定体制の新たな整備が必要だ。

 ※:SPEEDHI(3.11のケース)
   http://www.nsc.go.jp/mext_speedi/past.html

■正直で無責任な原子力安全委員長による斑目語録

日本の原子力安全の責任を担う立場のトップに位置する原子力安全委員長、
斑目さんの発言を追ってみた。

・「制御棒や非常用発電機が、複数同時に機能停止することまで想定して
 いては設計ができなくなる」(2007年、浜岡原発運転差し止め訴訟での
 証言、その内容の証言をしたことは2011/3/22参院予算委員会でも述べて
 いる)。
・「原子力安全設計指針は抜本的に見直しが必要」(事故後の国会の経済
 産業委員会(2011/4/13)、本年2月国会事故調査委員、本年2月、国会
 事故調査委員会での証言)
・「(原発の安全指針について)瑕疵(かし)があったと認めざるを得ない。
 お詫びしたい」「日本の安全基準は国際水準から30年遅れている」
 (国会が設置した東京電力福島第1原発事故調査委員会―委員長・黒川清元
 日本学術会議会長)の第4回委員会(2012/2/15))
 http://www.youtube.com/watch?v=BEzPgK_sQCg&feature=related
・「(指針が改善されなかった背景について)低い安全基準を事業者が
 提案し、規制当局がのんでしまう。国がお墨付きを与えたから安全だと
 なり、事業者が安全性を向上させる努力をしなくなる悪循環に陥っていた。
 わが国は(対策を)やらなくてもいいという言い訳に時間をかけ、抵抗が
 あってもやるという意思決定が出来難いシステムになっている」(同上)
・「(1次ストレステストについて)内容は再稼動とは関係ない。
 1次テストで安全性の保証は出来ない」(2011年秋以来、度々随所で
 同趣旨の発言)
・「世界的に見て、ストレステストと運転再開を結びつけているところは
 無い。それを政治的な判断で行うことについて、意見を言うつもりはない。
 総合的な安全評価としては1次評価では不十分で、2次評価について
 速やかに実施してほしい」(2012 / 3/27)
・「福島第一原発の事故を踏まえて実施された緊急安全対策などの効果が
 示されたことは1つの重要なステップだ」(大飯原発のストレステスト
 評価に対する安全委員会の審査結果(2012 / 3/27))
・「われわれは、安全性の確認を求められているのではない。
 緊急安全対策によって安全性が高まっていることは認めるが、
 安全性は、総合的に見なければいけない。運転再開の判断は、
 安全委員会の役割ではなく、原子力安全・保安院が責任を持って行う
 べきだ」(同上の発表後の記者会見)・・・裏読みすれば、
 「私は責任は持たないから、行なわないほうがいいでしょ!」?

この人は正直で無責任な人のようだ。デタラメさんの異名で呼ばれている
らしい。下記の2005年頃のビデオをご覧頂くと、原子力というものと
日本の権威ある専門家といわれる人を理解する参考になると思う。
 http://www.youtube.com/watch?v=zKwOxJuMhPs&feature=related

霞ヶ関というところがどんなところかを知る参考に。
 http://www.youtube.com/watch?v=dA40nqDVpfk&feature=relmfu
 http://www.youtube.com/watch?v=sTbiI87kUiQ&feature=related

■現在の原子炉(軽水炉)の本質的な弱点

現在の原発の安全性に関する根本的な問題点を考えてみる。
これまで国や電力会社は、原発は「5重の壁で防護しているから安全」と
言ってきた。

第1の壁:核燃料のウラン末が飛散しないように直径・長さ1cmの焼結
     したペレット
第2の壁:燃料ペレットを密封して詰めるジルコニューム合金で被覆した
     燃料棒
第3の壁:核反応を起こす炉心を納める厚さ16cmの鋼鉄製圧力容器
第4の壁:圧力容器を内部に格納する格納容器。厚さ3cmの鋼鉄製で、
     更に周囲を厚さ2mのコンクリートで覆い放射線が外に出る
     のを防ぐ
第5の壁:厚さ1m(*)の鉄骨入り鉄筋コンクリート壁の建屋。
     但し屋根の部分は薄く軽い
     (日本では航空機の墜落やテロに対する防護構造はない)

ペレットの融点は2800度、被覆管のジルコニューム合金の融点は1850度、
鋼鉄の融点1600度、コンクリートは約2200度である。

福島原発では、第1と第2の壁はドロドロに溶けて〔メルトダウン〕圧力
容器中に落下、更に、第3の壁の圧力容器を溶かして格納容器に流れ落ち
〔メルトスルー〕、その結果、第4の壁の格納容器を溶かした。
また格納容器系には早期に爆発・破損があった(ようだ)。
第5の壁、建屋は水素爆発で大破した。つまり第1から第5までの壁は
全て破壊され、大量の放射能が外部に放散した。

それでもまだ幸いであった。
大量のこの“高温度のドロドロ”が一挙にメルトダウンやメルトスルー
すれば、大量の冷却水と反応して、大きな破壊力を持つ水蒸気爆発を起こして、
更に大量の放射能を広範囲に飛散させる可能性さえあった。
(想定されていた最悪のケースの1つである)

このように5重の壁は、それが本当に必要な時には役に立たなかたどころか、
逆に他の壁を壊すものでさえあった。
更に事故時に放射能が外に漏れないように設けたはずの格納容器を破損から
護るためには、放射能を含む蒸気を外に排出(ベント)しなければならない
という、何とも矛盾した設計コンセプトだ(大飯原発などのPWR型と
いわれる炉では、福島などのBWR型より格納容器の容量は大きく設計は
されているが)。

燃料棒を水で冷やすのが軽水炉のコンセプトである。
燃料棒はひたすら冷やさなければメルトダウン・メルトスルーに繋がる。
一方、ジルコニューム合金製燃料棒は、高温のジルコニュームは水と反応して
大量の水素が発生して、空気(酸素)と混ざると水素爆発を起こす。

原子炉は冷却が断たれれば3〜4時間で水が蒸発して空焚き状態になり
温度が急速に上昇する。一度この状態になってしまえば、上述のように
必然的にメルトダウン、水素爆発、さらには水蒸気爆発の大きなリスクが
待っている。
一方、中性子を通す材質である必要から、燃料棒にはジルコニューム合金に
変わる適当な材料は無いようだ。

このジルコニュームと水の相性の悪さが、軽水炉のコンセプトの本質的な
弱点である。
この問題は原子炉部分だけでなく、使用済み燃料棒を入れた燃料プールに
ついても同じだ。こちらは、圧力容器や格納容器に入っていない
むき出し状態だけにより危険でもある。

■疑問のある設計思想・概念

(1)機能しない現プラントのファイルセーフの考え方

原発の装置には色々の安全のためのバックアップ対策が施されている。
しかし、原発関係の教科書(※)などを見ているとプラント工学的に大変
気になる点がある。ある部分で何か問題が発生しても、その他の部分は
正常に機能している前提で安全性の設計がされている点である。

地震や津波、テロなどでは複数個所の同時破損、機能不全が起こり得る。
現在の原発プラントの基本設計が行なわれた1950-60年代の米国東部は
地震・津波、テロとは無縁な時期、場所であった。

機器の故障の場合、故障は個別に起こるから、他の部分は正常に作動して
いる場合が多い。機器の故障に対する安全設計は一応されていたが、
自然災害やテロのように同時に複数個所に破損が及ぶようなケースに
対する配慮は脆弱だった。設計の考え方そのものが問題なのだ。

※:例えば、神田他著「原子力教科書――原子力プラント工学」オーム社
  (化学プラント設計やその運転や保守に携わったことのある人なら
   理解できる内容)

一政治家の政治的野心から導入を急いだ日本の原発の歴史は、
その米国からターンキー(全て相手にお任せで建設、完成時に鍵を受け
取って運転に入る)方式での導入する形で始まった。
その後の改良もこの最初の概念の上に立ったものでしかない。

部分の積み上げから全体の概念を理解することは大変難しい。
現在、機器やその材質ついては高い技術を有するが、全体の設計概念に
ついて日本の技術者がどこまでを理解できていたのだろうか。

福島のベントの弁は米国スリーマイルズ原子炉の事故後に付けられたもの
である。しかし、「どんな場合にどのように操作をするか」の十分な検討
無しに行なわれたようだ。
必要な時に操作が中々出来なかった。運転現場で配管図を取り出し、
ベント弁の場所探しや、ベント弁を開ける方法の検討に半日が必要で
あったと言われる。真っ暗で高放射線量のベント弁のある場所へ決死隊が
突入することになった。

放射能フィルターを付けていなかったため大量の放射能が放出された。
また、3号機からの水素が4号機に逆流し、4号機でも大爆発を起こした。
そんな構造になっていた。明らかな設計ミスだ。

スリーマイルズ事故の後も、国はベント弁についての安全基準を変えなかった。
電力会社が勝手につけたという位置づけだが、本気で検討したとは思えない
(アリバイ作りと言う人もいる)。
そうでなければ問題がよく分っていなかったと考えざるを得ない。
(諸外国は常識として付けている)放射能の放出を抑えるフィルターは
付けなかった(付ければ目立ち、「安全神話の嘘がバレる」と恐れたからと
いう話もある)。
電源を落すたびに弁が開いて放射能が漏れては困るから、電源が落ちれば
弁は閉じてベントは出来ない構造になっていた。フェールセーフの二律背反の
難しい条件を抱えている部分だ。

ベントが必要なのは放射能が漏れ、プラント内部には近づけないような
余程の緊急事態である。諸外国では被曝の危険の少ない場所から、
手動でベント弁を開けられるように設計されている。
しかし、福島ではそうではなかった。
ベント弁がどこにあるのか、開く方法さえ事前に分らなかった
(ベント操作が遅れた理由)。勿論マニュアルなどはなかった
(実際に使うことは想定外だったのだろうか)。

(2)材質の放射線による劣化評価に見る旧態依然の扱い

大飯原発をはじめ、西日本に多く建設されているウエスティング・ハウス
(WE)の設計したPWR型では、発電タービンに送る蒸気に放射能を
含まない構造や、格納容器の容量などでは、GE設計の福島のBWR型タイプ
より優れているとも言われる。その一方で、中性子によって時間と共に
圧力容器に使われている鋼鉄がスカスカになって脆くなり、破損や爆発の
危険性は高いといわれる(※)。
原子炉中核の圧力容器が破裂すれば数100km先までが避難地域になるほどの
大量の放射能が放出され、想像もしたくない事態になる。

原子炉の中に圧力容器と同じ材質の鋼鉄片を入れて、その経時劣化のテスト
を行なっているが、鋼鉄片の試験の結果、劣化度が予測より早いことが
問題になっている。
しかし、保安院は「予測式が間違っていたためで問題なし」として処理しよう
としていた(審査会の委員からの強硬な異議で結論は先送りになっている)。
安全より自分たちの立場が大切のようだ。

※:放射線脆性などに関するもの:
  ・田中三彦「原発は何故危険か」岩波新書
  世界の原発事故の分析:
  ・桜井淳「原発のどこが危険か」朝日新聞社

(3)安全神話の嘘のため、新しい知見の取り入れが出来ない日本の原発

自動車の世界なら新しい排気ガス規制が出来れば、一定の期間を置いて
規制にパスしない車は使用を許可されなくなる。
航空事故では原因が分れば、メーカーや航空会社に早期に改善が求められる。
医薬品なら重篤な副作用が世界のどこかで発生すれば、24時間以内に
全世界に通報され、直ちに使用禁止や販売中止などの措置がとられる。

それでは日本の原発ではどうか???

簡単にいえば、一旦許可された原発は、定期検査毎に必要なメンテナンスを
すればそのまま使い続けることが許される。
改良や事故防止のための新しい知見が得られていても、それを古いプラント
に遡って適用を要求されることはない。
1971年稼動の福島の1号機は、何時までたっても1971年の水準の原発のままだ。

日本で原発導入の議論がはじまった1950年代には、まだ広島・長崎の記憶が
残っていた。更に当時米国の水爆実験により日本のマグロ漁船「第5福竜丸」
が被曝し、無線長が亡くなる事故が起きた。
「原子力反対」の国民感情の中で、原発建設のためには「絶対安全」と
国民に嘘をいう必要があった。「この嘘との整合性を取るため、新たな嘘を
重ねる」ことになった。絶対安全なものなら、安全性を高めるための
ルール改正も、装置の改良も必要ないことになる。

もしこれをやれば「嘘が国民にバレる」と自縄自縛状態に陥ったのか
改善を抑えてきた結果、圧力容器の材質や製作には優れた技術はあっても、
安全技術のレベルは他国に比べかなり低いと云われる。

■事故後も安全神話から脱却できない政府、原子力村

経産省・原子力安全保安院、かなりの政治家(与野党を問わず)、
多くの原子力分野の専門家、全国の電力会社は、今回の事故は、
「1000年に一度、M9の大地震による想定外の大津波で冷却機能を失った
ための災難」ということにして、地震で内部構造に損傷があった可能性を
あくまで否定したいようだ。

原発の内部構造、つまり耐震設計上の問題があったならその影響は全国の
原発や、今後の原子力政策に及び対処が大変になるからだ。
しかし、発電所のパラメータ(圧力や温度データ)、運転員の書いた記録など
から、地震による内部の破損の可能性を示唆する分析がかなりある。
格納容器の中の状況が分らない現在では「検証出来ていない」問題だ。

原子炉の安全停止の条件は「止める・冷やす・閉じ込める」という。
当たり前のプロセスを言っているだけだ。
今回は「そんなことまで考えていては原発は作れない」と言っていた
全電源喪失で「冷やせなくなり」、窒素ガスを封入していて起こらないこと
になっていた水素爆発とメルトダウンで「閉じ込められない」ことになった。

さて、「止める」についてはどうであろうか。

直下地震(※)などで制御棒が旨く作動せず、「止められなくなる」可能性
も否定はできない。実際、「制御棒が途中で引っかかった」、「制御棒が
抜け落ちた」といった事故は過去に何度か起こっている。

バックアップ機能に、核反応を止めるために中性子を吸収するホウ酸水を
注入する装置などもつけられているが、これとてタンクや配管が破損して
いないことが前提になる。

この地震国日本では、客観的に考えれば十分起こりうる「止められない場合」
については、原子力関係者は絶対に触れようとしない。
メディアも権力とスポンサーに気を使い取り上げない。
「起こってはならないことは、起こらないことにする。目をつぶる」
安全神話から、まだ脱却できないようだ。

※:1995年のM7の直下型の阪神淡路大震災で筆者の自宅のテレビは、
  壁や戸に付いた傷などから推量すると、数10cm浮き上がって3mほど
  先に吹っ飛んでいた。
  ある人は「ベッドの中でトランポリンをしているようだった」と言う。

  物が浮上がったのは重力(980ガル)より大きな加速度が加わったと
  云うことだ。地震振動の周期次第で、浮き上がったものが落ちてくる
  時に突き上げの力が働くと、980ガルの2倍以上の力がモノに加わること
  も起こる。耐震性として縦向きのこんな力を想定しているだろうか。

  阪神、中越沖、東日本など昨今の大地震は全て、想定外の場所・震度、
  メカニズムで起こった。日本海側では大津波は起こらないとの説が多い
  中で、北海道の奥尻島は海に飲まれた。奥尻島、東北で起こったように
  津波で大火災になる想像をした人はいなかった

■旧来の安全基準、組織体制のあるうちに駆け込みを図ろうとする政府

「今の体制や法律、基準には瑕疵がある」との認識から、新しい法律や体制を
作ることにしたはずだが、野田首相はこれには関わらず「法律の手順に
基づいて進める」と言う。

その現行のルールでは、安全性判断の基準となる安全基準を内閣府にある
原子力安全委員会が作り、それに基づき経産省にある原子力安全保安院が
審査することになっている。

しかし、その安全基準に基づき原子力安全保安院が安全と認めた福島第一原発
の1〜4号機が大事故を起した。つまり現行の基準や手順、検討方法や体制
では安全は保証されない、また大変杜撰な危機管理体制であることが
実証されたわけなのだ。
しかし、今の政府の動きは、今夏に事故の検証結果を出すとしている
国会の事故調査委員会、政府の事故調査委員会の結論を待たず、
旧来の事故を起こしたルールと体制(同じ人が同じ判断基準で進める)の
下で定期検査を行ない、原子力安全委員会は「安全とは言はない」という
状況下で、安全性の判断を素人の4人の大臣が政治決断で決めて、
再稼動を進めようというのだ。

再稼動に地元の抵抗が強いと見て野田首相は「暫定的な安全基準」なる
ものの作成を指示した。何とも驚いたことに2日もたたぬうちにこれが出てきた。
しかも、“暫定”と云う言葉が消えていた。
既に出来ているか、簡単に出来ることだけを基準として、大掛かりなことは
「実施の姿勢を見せればよい」ということにして工程表として提出を
求めることにした。またまた驚いたことに、そんなシナリオがあったかの如く、
関西電力はすぐ防潮堤や免震棟建設の工期を大幅に早める修正計画を
出してきた。

3・11以降、電力会社は「足りない、足りない、大停電を起こす」と
国民を恫喝するかの大声を上げて需要者に節電、業務の休日振替、夜間振替を
強いたが、結果的には昨夏、昨冬とも相当の余力があった。
(恐らく、何もしなければ電力不足になるのであろうが)電力の需給実態の
信頼に足る説明は未だにない。

なお、各社の電力料金には僅かの差はあるが、原発依存率の高い関西電力が
特に安いわけでもないし、依存率の低い中部電力が特に高いわけでもない。
電力料金の内容はうやむやのままだ。

政府は、原子力を推進する旧来からの体制とルールの下での駆け込みで
再稼動させようとしている。それにしても野田首相は、何故これほどまでに
稚拙な方法で無理をして進めようとするのだろうか。
事故で地に落ちた政府・電力会社・専門家に対する信用は、更に泥の中に沈んだ。

■政府が考える新しい組織案

新しい組織案では、現在の原子力安全保安院はそのまま新組織に横すべりし、
ここへ文科省の原子力関係組織を寄せ集めて原子力規制庁として環境庁の
外局とし、原子力安全委員会は原子力安全調査会と名称を変え環境大臣に
アドバイスする立場にするらしい(推進の立場の原子力委員会に対し、
位置づけも大幅に格落ちする)。
また、具体的な技術面では、従来から〔独〕原子力安全基盤機構という
多数の電力会社、原発メーカーからの人がいる組織が保安院の下請けで
行なってきたが、この形(電力会社が出した申請を電力会社が審査する)は
そのまま存続させるようだ。

組織の体質は幹部を総入れ替えするぐらいのことをしないと変わるものでは
ない。これだけの(責任の取り様のない)大事故を起しながら、
辞めた人は一人もいない。せめて責任者の更迭ぐらいしないと、
官僚組織は「全て今までのままでよい」としてしまう。

これでは看板の架け替えに終わる可能性もある。 

国会事故調の黒川委員長は会見で「安全委員会と保安院は安全を担う使命を
持っているが、緊急時の備えができておらず、事故がない前提で原子力行政を
推進するなど、国民の安全を守る意識が希薄だ」と批判した。

なお、弱体官庁である環境省の大臣に権限が集中するこの新しい体制で、
平常業務はともかく、大事故にはとても対処できるであろうかと云う懸念が
残る。相変わらず「事故は起きない」という前提で物事が進んでいるようだ。

また、これは安全性の最終判断を政治家が担う仕組みだ。IAEAなど
国際機関は「安全規制組織の政治からの独立」を勧告しているが、
今回もこれまでと同様、無視するようだ(※)。

※:参考
 http://www.dailymotion.com/video/xp9p6g_20120306-yyyyyy-yyy-yyy-yyyyyyyyy_news

国際機関の勧告を拒否・無視した例では、「推進組織と規制組織の分離」
(IAEA勧告)など過去にいくつかあるが、最近では2007年、原発の
防災対策重点地域を18マイル(約29キロ)以上に拡大することを求める
IAEA勧告を、防災指針検討作業部会の本間俊充主査(日本原子力研究
開発機構安全研究センター長)の助言に基づき原子力安全委員会が拒絶した。
その1年前には、原子力安全保安院長が「寝た子を起こすな!」と原子力
安全委員を恫喝?したとの証言がある(その後、保安院から安全委員会に
出した同趣旨内容の文書も見つかっている)。
 http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20120317-OYT1T00220.htm

■ストレステストについて

関西電力が提出したストレステストの結果を2ページに纏めた資料が、
経産省のHPにある(※)。
難しいものではないので、先ずこれを見ていただければと思う。

※:大飯原発のストレステスト(末尾に資料リストがある)
 http://www.meti.go.jp/press/2011/11/20111117003/20111117003.html

内容は、「送電線の鉄塔が地すべりで倒れて停電した以外には、
原発の内部構造に地震の影響は全くなく(※)、事故は津波によって冷却が
出来なくなったため。従って津波対策と冷却用の非常用電源の確保さえすれば
問題解決」といった問題多き前提で始まっている。
対策内容は「やった方が良い・やる必要がある」事項には違いない。しかし、
「これで十分か」という観点から見れば十分でないのは明らかである。

※:内部の状況も把握できていない現在、その保証はない。
 今までに述べてきたように、内部の破損の可能性を示唆するデータもある。

乱暴な言い方をすれば、「火事が起こった。消火が出来ず大火事になった。
当時消防自動車を集めるのに苦労したから、消防自動車を沢山配備して
おくことにした」といった内容だ。
出火原因の検証、密集した古い建物をどうするか、建物の不燃化対策、
スプリンクラーの強化といった構造問題には手を着けないで済まそうという姿勢だ。

ストレステストは、その文字通り、原発を構成する種々のコンポーネントが
どの程度のストレス(種々の負荷)に耐えられるかをシミュレーションで
求め、余裕度がどこにどれだけあるかを評価する方法だ。

余裕度は基準(想定や設計指針)が妥当な場合にのみ意味を持つ。
しかし、昨今、想定外のことが次々起こり、原子力安全委員長は
「安全指針には瑕疵がある」と云う。つまり「余裕があるから大丈夫です」
とは到底言えない状況のはずだ。

なお、今回ストレステストは、炉心溶融〔メルトダウン〕を防ぐ対策の
1次テスト、それでもおこってしまった場合の対策の2次テストに
分けているが、昨年末が期限の2次テストは手付かずのままだ。

★大飯原発について関西電力の対応には驚くことが多い。

・連動はしても3連動はしないとしてきた3本の断層がある。
 安全保安院の指摘に対して関西電力は連動2本が3本になって1.5倍の
 揺れと簡単に答え余裕はあるとした。
 「信憑性がない」と放置してきた古文書に記述のある大津波に対する
 ボーリング調査のやり直しの問題も残っている。
 出てこないことを祈って探しては出るものも出てこない。
  http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/nuclearpower/32717.html

・新しく配備した電源車を使う訓練の様子がテレビで報道されていた。
 驚いたことに数台の電源車は、原子炉建屋から数10mしかない(ように
 見える)放射能漏れがあれば近づけない、崖崩れか地すべりの下敷きで
 全滅するかもしれない急峻な崖下のスペースに整列して置かれていた。
 しかし、Googlの航空写真で見ても、山を削って最小限の平地しか作って
 いないから、電源車の適当な置き場所などないのだ。
 事故があっても福島のように汚染した冷却水の処理設備や保管タンクの
 為のスペースの確保など無理だろう。
 2次テストに手がつけられない理由が分ったような気がした。

★ストレステストについては、これまた政府の稚拙な行為が目立つ。

最初は”ストレステスト“という表現であったが、
何時らか”安全性に関する総合評価(ストレステスト)となり、
“安全性総合評価”という表現も聞こえるようになった。

どこが総合なのだろうか(消費増税論議に終始し、社会保障に中身も
一体化も見えてこない「社会保障と税の一体改革」案との共通性を
見る思いがする)。

また、IAEAから安全のお墨付きを貰ったかのような情報操作を行なった。
IAEAはストレステストのやり方について違っていないと云っただけで、
テスト結果を評価して安全と云ったわけではないはずだ。結果に対して
責任を負える立場にないIAEAがそんなことまですることはない。

★<参考> 日本の原発建設の進め方

原発の立地は実質的には政治的に決められてきた(但し人口密集地は避ける
ように求められている。ここにだけには原発は危険なものという認識が
あったのだろう。)

安全性については、原子力安全委員会がつくる安全指針があるが、
その内容は「こういう点について、気をつけて問題の無い様にやれ」と
いったような抽象的なものだ(※1)。

原発を建設する電力会社が、この指針に基づき原発建設計画や設計を進める
ことになる。その地域で、どの程度の地震や津波があるかは電力会社が
考えることになる。世の中には学問的にまだよく分らぬことは多くあるが、
地震の発生場所やその大きさなどもそうである。
分らぬことには学者の間でも色々の持論を唱える人が出てくる。
「この断層が地震を起こす」という学者もいれば、「この地域では地震は
起こらない」という学者もいる。

電力会社は当然後者の学者(※2)の考えを採用して理論武装した計画を
つくる。これを原子力安全保安院が審査指針と照らし合わせを行なう。
電力会社は保安院がOKなら問題なしと考え、保安院は指針に反する
ところがないから問題なし、安全委員会は個別の具体的な問題にまで
関与できないとする。誰も結果責任を負わない仕組みなのだ。

※1:安全審査指針:
   http://www.nsc.go.jp/shinsashishin/anzen2.htm
 (詳細内容ではなく、どんなことがどのように書かれているものかを
 知っていただければと思う)
※2:土木学会―原子力委員会の名簿:
   http://committees.jsce.or.jp/ceofnp/list_22
 (原発の地震や津波に対する影響や防護策などについての専門家という
 人達の集まり。土木学会の検討結果と云ったものはこんなところで作られる)

★<参考> ストレステストの専門家意見聴取委員会

ストレステストの結果に対し専門家の意見を聞く委員会を保安院が開いた。
今回も受胎からの他の審議会や委員会と同様のパターン、
つまりメンバーは政府側の人を中心に政府に言いなりになる人で構成し、
政府に批判的な人を2〜3名を加えて色々の意見を聞いたという形にして
政府案を結論にするやり方が採られた。「再稼動批判の委員が何を問題と
したか」「政府の委員会とは・・・を理解する」参考に下記HPを参照されたい。
 http://www.youtube.com/watch?v=e2RZTD4z73o&feature=related
 http://www.youtube.com/watch?v=l2XPQkM5bgs&feature=relmfu
上記における2名の委員の主張する問題点の説明:
 http://www.youtube.com/watch?v=sOGuG49zkYo&feature=related
 http://chikyuza.net/n/archives/18361

★<参考> 日本の電力需要

電力消費の実態を追うと、1990年バブル崩壊後の失われた20年の経済が
低迷する中でも、2009年の電力消費は総量で1.24倍に増え、その結果、
産業部門が全体の31%、業務部門つまりオフィスが36%、家庭が31%の
電力を現在消費している。
伸び率の内訳は、産業部門(主に製造業)が効率化などで0・86倍と下げた
のに対し、オフィス(主にサービス業)が1・61倍、家庭が1・55倍と
大幅に増加している。
オフィス部門では電力消費量、伸び率とも商業部門が突出していて
日本全体の電力消費の10.6%、伸び率は2.43倍となっている。
次いで教育研究部門が4.1%で伸び率は1.64倍、飲食宿泊部門が3.1%で
1.85倍、公務が2.6%で1.85倍、運輸付帯サービス2.4%で1.89倍、
リースなどを含む対事業所サービスが2.5%で1.58倍などが目立った
ところである。なお金融は0.5%で1.23倍、通信放送は0.93%で1.64倍、
一方伸び率の低いほうでは、医療保健福祉の2.8%で1.11倍、水道廃棄物
処理の2.4%で1.19倍、娯楽の2.5%で1.03倍などである。(※)
 
※エネルギーバランス表(資源エネルギー庁作成):
 http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/result-2.htm

オフィス部門の電力消費増を、IT化などを理由にする分りやすい解説で分った
ような気にならないでほしい。
データを見れば家庭部門と同様、オフィスもまた、オフィス機能向上という
口実で「快適さ・便利さ・見栄え」を求め、生産性向上を越える消費が
なされてきたことは明らかであろう。

■おわりに

歴代日本政府は何故ここまで原発に執着するのであろうか?。
電力業界は何故ここまで傲慢でいられるのであろうか?。

日本の原発の歴史を遡ると1950年代、「日本の原子力の父」といった
呼ばれ方もする読売新聞の社主、正力松太郎氏と、当時少壮政治家であった
中曽根康弘氏に行き当たる。

前者はエネルギー問題を解決する手段として原発建設を掲げ、産業界を
バックにつけて政権獲得という自らの政治的野望の実現を強烈な
リーダーシップで図ろうと企てた人である。

老齢から来る拙速なやり方が色々問題を生み、その影響は今日にまで尾を
引いているようにも思える。以降、読売新聞は一貫して原発推進、擁護派
である。一方の中曽根氏は当時から再軍備を唱える保守思想の強い政治家
であり、日本初の原子力予算を議会に提出し、また原子力推進のための
法整備を着々と進めてきた人である。

下記は、表にはほとんどでることのない問題だが、明確な事実である。
その裏に何があるのかについて確たるものは持ち合わせてはいない。
各自でご想像いただきたい。

・2010年に公開された外務省機密文書「わが国の外交政策大綱(1969年)」に、
「核兵器については、NPT(核拡散防止条約)に参加すると否とに
かかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器の製造の
経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘を
うけないよう配慮する」とある。
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku_hokoku/pdfs/kaku_hokoku02.pdf

原発と原爆は同じ技術の上にある。核反応が瞬間的に起こるようにしたのが
原爆であり、ゆっくり起こるように制御するのが原発である。
また、原子炉の中では、原爆の原料になるプルトニュームが生成される。

・読売新聞は原発推進を掲げる社説(2011年9月7日)で
 「日本のプルトニュームによる核抑止力」に明確に言及した。

自民・民主の保守系議員20名が地下原発推進の議員連盟を立ち上げた
(2011年5月31日)。
 http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110531/stt11053117580006-n1.htm

★<付録> お勧め参考資料(特に1)は是非手許においていただきたい資料)

1)(一般財団法人)日本再建イニシアティブ「福島原発事故独立検証委員会
 調査・検証報告書」  出版元:ディスカヴァー 1500円
(印税分は国際シンポジュームの開催、外国語による翻訳出版などに使うとある)
(政府、企業などから独立した市民の立場から進める必要があるとの認識で
 行われた事故調査・検証結果の報告書。30名の若手・中堅の科学者、
 技術者、研究者、実務家、弁護士、ジャーナリストが資料集めや関係者への
 ヒアリングを行い北沢宏一氏、野中郁次郎氏など6名の委員の責任で
 纏められた)
2)大鹿「メルトダウン―ドキュメント福島第一原発事故」講談社
 (公表資料と、首相や関係大臣、政府関係者、東電関係者〔匿名〕などへ
 の独自取材による事故の記録。事故直後に「何が起こっていたか、
 関係者が何を考えていたか。何をしていたか」の記述)
3)河野太郎「原発と日本はこうなる」講談社
 (自民党で数少ない原発批判論者の書いたデータブック。幅広い信憑性の
 ある情報源として)
4)山岡「原発と権力―-戦後から辿る支配者の系譜」ちくま新書
 (今を理解するために必要な日本の原発をめぐる歴史、政治のかかわりなど)
5)佐藤「福島原発の真実」平凡社新書
 (プルサーマル、核燃料サイクルをめぐる、政府・東電と県の戦い?)
6)田坂「官邸から見た原発事故の真実―-これから始まる真の危機」
 光文社新書 (福島原発事故が開けてしまった数珠繋ぎのパンドラの箱、
 これから連鎖的に浮上する様々な問題)

以上

<追補>
・大飯原発3・4号の地震動の過小評価等に関する要望書
 http://www.jca.apc.org/mihama/fukushima/ooi_youbou20120405.htm
・原発の安全基準 平易な文言、妥当性は疑問(産経新聞)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120407-00000094-san-pol
・安全基準 専門家「再開ありき」(NHK)
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120407/t10014280971000.html
・福島第一原発の復旧状況まとめ
 http://www.imart.co.jp/houshasen-level-jyouhou.html
・東日本大震災からの復旧状況まとめ
 http://www.imart.co.jp/higashi-nihon-daisinasa-fukkou.html

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       http://www.TRU-Solutions.jp/F+S_Forum.htm
参加者のご紹介や【F+S Flash】のバックナンバーは上記URLで
   各種有益な情報提供やイベント等の告知があればお知らせください
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

編集後記: 何度も書いていますが、この20年の歴代首相の中で、結果的に
良いも悪いも、首相になるときに宣言したことをやったのは小泉さんだけです。
特に、最近の首相は(民主党だけではない!)言ったことをひるがえす。思う
に問題は政治ではなく官にありそうだ。誰もそこに手を付けられない。黒船を
待つしかないのだろうか?そろそろ、外国人投資家は日本国の経営の危うさに
気付き、手を打ち始めている。為す術のない日本国民だけが置いて行かれる!

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