F+S Flash
(Vol.123)

 

          『F+S Flash』 Vol.123<号外>
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■=== 【コラム/『企業組織の課題』(2/3)】 <寄稿> 公江 義隆

「いかにも”ワンマン”」よりも、本人も周りもそうは思っていない
「結果ワンマン」が一番問題。嘗て有能な行動力のあるヒトほど陥りやすい。

「いかにも”ワンマン”」は、当の本人も意識しているから救われる。
「結果ワンマン」は、自分が見えてないから問題の根が深いのである。

  〜〜『コンサルティングの視点からみた企業組織の課題』〜〜

               公江 義隆 y-koe@air.linkclub.or.jp
             (JUAS/ISC、もとITコーディネータ、
              もと武田薬品工業(株)情報システム部長)
 −−目次−−
 1・やっているのに旨く行かない会社
 2・何となく動きがなくなる会社
 3・組織と人事が停滞してレベルダウンする組織
*4・忙しくて成果がでない会社
*5・世代継承でつまずく会社
 6・理念がなく漂流する組織
 7・目的意識が弱く手段が自己目的化する組織
 8・“社内”専門家が方向を間違わせる組織
 9・危機意識が無い組織
 <終わりに>

 ※本稿−1.2.4.は、ITC近畿会コラム掲載原稿
  「リーダーの気力」の内容を基に修正・加筆したものである。
 −−−−−−

4・忙しくて成果がでない会社

社員は大変忙しそうに動き回っているのに、何となく停滞してしまう会社の
話である。

足許を見直してみると、こんな傾向にはなってはいないだろうか。
 ・よく見てみれば、こんなものをまだ扱っていたのかといった製品が
  数多くある。
 ・新製品とはいうものの、実質は従来製品とあまり代わり映えがしない。
 ・何時の間にか、よく知らない取引先やキーマンの顔を思い出せない
  顧客が増えている。
 ・顔の見えない社員が増えている。
 ・製品や取引先・顧客の優先度、課題の重要度が分からなくなっている。
 ・皆が大変忙しがっているが、「何故そんなに忙しいのか」その理由が
  誰にも説明出来ない。
 ・等々・・・

組織の管理能力を超えたときに起こる現象である。
経営資源の分散が顕著で結果的にどの分野のどの問題も中途半端なことに
終始している。こんな状態が続くとやがて社員のモラール(士気・意欲)は
低下し、さらに放置しておくと経営者を含めモラル(倫理感、道徳)の喪失
につながってゆく。

“取引先・顧客を増やす、新製品を開発する、業務量の増加に対応するため
に従業員を増やす、等など、これらの結果売上は伸び会社は大きくなる。
しかし、その裏面で様々な問題が蓄積されていく。

・既存製品と本質的な違いのない、あるいは他社品と横並びの名ばかりの
 新製品は競争力に乏しく、一時的に売上は増えても長期にはそれほど
 全体の売上を伸ばすわけではない。

・自社の既存品と競合を起こして既存品の売上を圧迫し、製品の寿命を
 必要以上に縮めることもある。思うように伸びない売上を伸ばそうと
 して更に新製品を求めることになる。

・競争力のある優れた製品開発のための研究開発資源を食いつぶし、
 結果的に新製品とは名ばかりの安直な製品しか開発できない体質に陥る。

・結果的に多種少量の製品構成になるため、製造部門の手間は製品数の
 幾何級数的に増大し、原材料・製品や流通の在庫が増加しコストが上昇
 してくる。

・製品数が増えた結果、営業員が一つの製品に関われる時間が減少し、
 製品知識がレベルダウンする。

・取引先・顧客の増加によって、一軒の取引先への訪問回数が減少し、
 結果的に販売機会損失が増えてくる。上得意先でも製品離れが始まる。
 その取引先を引きとめようとして相手の無理難題を聞き、必要以上の
 サービスをせざるを得なくなる。関係部門の担当者の仕事が増え、
 目に見えぬところでコストが増大する。

・売上は増えても、生産性も取引先・顧客からの信頼も低下してくる。

・日常業務上次々起こってくる目前の問題は、どれも対処せざる得ない
 問題と映っている。

・多忙さを言い訳に、従業員は表面的・形式的にしかルールや指示を
 守らなくなり、営業員は自分の行きやすい取引先にしか訪問しなくなる。
 等々・・・

当事者は、問題点も解決方向も少なくとも総論としては感じとっている
場合も多いが、具体論では思考を停止させている。“

厄介な点は、自分たちが1つ1つやってきたことが成長に繋がったという
過去の成功体験が背景にあって、自己否定にもつながる問題解決への
“思い切り“が大変困難なのだ。

こんな、日常の努力が成果に結びつかない状態を放置すると、
社員のモラール(士気)は低下し、やがてモラールの低下はモラル
(倫理観)の低下に繋がってくり、不祥事の温床になる。
 
多くの場合、必要な施策は世に言う“選択と集中”なのであるが、
例えば、製品を整理すれば、その時点では売上げの減少を覚悟しなければ
ならない。切られる側に関係する内外関係者の抵抗もある。

選択すれば必ず旨く行く保証があるわけではない。
 選択には将来への洞察力が、決断には胆力が、実行・集中には気力が、
リーダーに求められる。八方美人ではリーダーは務まらない。

5・世代継承でつまずく会社

創業経営者から2代目が引き継いだあたりから、
おかしくなってゆく会社がある。

“ゼロから叩きあげた創業者は、自分に学問がなかった故に必要以上の
苦労をしたとの思いもあるようだ。それ故か後継者となる息子に十二分に
学校教育を受けさせ、留学や学位までとらせている場合もある。
卒業後は大きな企業で数年、組織運営の勉強をさせた(つもりの)後に
呼び戻し、然るべき肩書きを与え、経営者としての育成をしている
(つもりの)場合がある。

また、当人の方はJC(青年会議所)やライオンズクラブなど地域の
経営者の集まりなどに加わり、人脈作りや見識を広めている(つもりの)
場合もある。

やがて創業者は2代目に後継を託す時期がやってくる。

思い切って自分は第一線を退き、会長の肩書きで時々会社に顔を出す
ぐらいにして、息子の社長に任せる決心を一度はする。
しかし、それでも心配であるから、長年ともにやってきて信頼の置ける
部下の一人を新しい社長の傍に置き、補佐をさせることにする。

2代目の息子にとって先代である親は意識の上で強いライバルでもある。
現状が旧態依然たる経営と見えている(そう見たい)、やる気満々の
息子は、“必要以上”に現状に変えようとして、実力不相応の新しい
ことで自分の存在を示そうとする。

社員は新社長の行動をお手並み拝見と様子を見ている。
反対は出来ないが、社員の多くにはそれ程必要とも、旨く出来るとも
感じられない仕事である。

当然旨くは行かない。先代に見込まれた真面目な補佐役は、
“必要以上”に責任を感じて、“必要以上に”新社長をカバーしようと
する。多くの社員には、新社長の言うことより補佐役の話のほうが
しっくりくる。新社長は浮き上がり、補佐役は良かれと思うことを、
言うほど・するほどに事態がこじれてくる。

やがて何となく新社長派と補佐役(会長)派といった人脈が出来て
社内の一体感が失われてゆく。先代の現会長は、会社で週に1度お茶を
一杯飲んで帰るというわけには行かなくなってくる。“

良い人たちの善意の行動が組織の歯車を狂わせて行く。

勿論、旧態依然とした現状から改革・改善しなければならない点は多々ある
し、創業者も補佐役も、総論的には一般社員もそれに気がつき、
新社長にそれを期待しているのだが、また、経営環境が経営の改革の実行を
求めていても、実績のない新社長にはそれをやるだけの信頼が周囲から
得られない。

ゼロから出発した創業者は、筆舌に尽くしがたい努力、数多くの失敗と
成功を“一つ一つ”積み重ね、艱難辛苦の数十年の末今日に至っている。
真剣にのぞんできた経験の積み重ねが、直感的な判断や新しいアイデアの
源になっていた。脳細胞のネットワークに刻み込まれた数10年の経験は、
引き継ぐにはそもそも不可能なものなのだ。

大学やビジネススクールで学べる経営理論は、直接実務に役に立つような
ものではない。経営分野の理論研究というのは、多くの場合、過去の事例を
基に、背景要因や社内外の状況・条件や実行方法などに関するケースから、
普遍性を名目に、特異な(具体的な)事項を捨象して理論形成やモデル化を
おこなう(エビデンス必ずしも明白ではない)。

しかし、現実の場で結果を左右するのは、この捨象された部分を、
如何に的確に具体的に行うかである場合が多い。
この部分こそが夫々の会社に固有の問題の場合が多いからだからだ。

また、地域の団体での自分と同じような立場の人同士の付き合いは、
自己満足は得られても、真にお互いを高めあうようなことにはなかなか
ならならないのだろう。

創業者は、小さく始め、小さなことを時間をかけて一つづつ積み重ねて
大きなものにしてきた。その大きなものを一時に引き継ぐのは不可能だ。
特にワンマン経営スタイルの会社の継承は難問題である。

後継者を育てる側も育てられる側も、意識している以上に後継者との
能力ギャップは大きい。然るべき時期から、「ワンマン経営から組織的な
経営管理方式に切り替えてゆくべき」という問題ははっきりしていても、
答えの一般解はないし、答えは一つだけでもない。
                           ・・・つづく
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