『中堅・中小企業市場向けERPビジネス』
平成11年5月24日

■はじめに

日本の産業基盤を形成する中堅・中小企業が、人的または資金的制約の中で、いかに効率的に情報システムを利用し他社との差別化を図るかは、普遍的な課題である。しかし、そのために必要な各種の情報を提供し、中堅・中小企業に最適な情報システムモデルについて考察した情報はこれまでほとんど報告されていない。

中堅・中小企業市場においては、ユーザは自分たちの求める姿をベンダーが把握できていないと考え、ベンダー側ではソリューションを提案してもユーザが理解できないと考える状況がいまだに続いており、双方の意見の差異から満足できるシステム導入ができない事例がいまだに多いのは非常に残念である。また、このマーケットは、大手企業以上にホスト(あるいはオフコン)ベンダーの丸抱えが浸透しており、しかも、ユーザがこの体制から脱却するための教育や情報収集がしにくい状況でもある。

本編では、大企業とは異なる環境と制約の中で、中堅・中小企業が向かう方向とソフトウエアパッケージベンダーやソリューションプロバイダーが向かうべき方向を考えていく。

■ユーザ環境

大企業と比較して、中堅企業は若干、パッケージに対するアレルギーは少ないように思える。しかし、中堅企業が大企業の系列会社の場合は、その影響を強く受けて同じように拒否反応が出る。パッケージは少しずつ変容してはいるものの、パッケージに業務を合わせて行くERPのような概念は日本では未だ定着していない。

中堅・中小企業における企業経営と情報化という視点では、全事業所に導入済みは1/4にも満たず、特定事業所のみや一部の事業所から全社に展開中が約1/3となっている。業務別にパッケージの利用状況を見ると、財務・会計管理と給与管理が約半分の企業で使われている。人事管理が約1/3で、他は1/6にも満たない。 また、何故パッケージを使わないのかの質問に対しては、自社の業務や商習慣に合わないという答えが最も多い。具体的には、出力帳票の形式が合わないが一番多く、カストマイズを依頼すると高額の費用が発生し、一からソフトを作るのとあまり変わらなくなってしまう。また、ERPパッケージを採用しなかった最大の理由は費用が高いであった。

最近では、上記の問題を解決できる柔軟なカストマイズやレポート作成機能を持ったパッケージも多くなってきた。しかし、特に中小企業でのPC活用率はいまだに低く、いかに柔軟なパッケージといえどもPCを充分に使えないエンドユーザに対しては依然として非常に大きな壁といえるであろう。

そして、中堅・中小規模市場を見るときに注意すべきであるのは、企業を単純に規模別に見るのではなく(図―1)にあるような管理レベル別に見なければ、各企業群に必要とされる要件は見えてこない。つまり、大企業系ほど管理精度に対する要求度が高く、中小の独立系ほど独自性が強いことに注意すべきである。各市場別に必要とされる要件を満足するパッケージとサービスを提供するためには、販売ルートや価格・サービス戦略もこれに影響を受ける。

多くのパッケージが中堅・中小規模市場に名乗りを上げているが、その生い立ちや提供のための戦略は千差万別であり、また、残念ながらその特徴を理解して検討しようとするユーザに対し適切なアドバイスができるコンサルタントもほとんどいないのが現状である。システムインテグレーション(SI)にはコンサルテーションがある場合とない場合があるが、中堅企業でも 最近はコンサルタントがついていてどのように進めたら良いか進言を受けている。しかし、残念ながら基本構想が最後のシステム化に反映されていないことが多い。今後、ユーザの現状やその業界に精通しかつパッケージ関連の情報も熟知したコンサルタントの育成が望まれる。

エンドユーザコンピューティング(EUC)を根気よく続け、短期間で次々とグレードアップして部分的にでも効果を上げていくのが現状考えられる最善のやり方であろう。自動車業界・電気業界など国際競争力の厳しい業界では、パッケージを取り入れ各社固有な仕事の進め方でなく、業務の進め方まで海外でも違和感のないシステムに変わりつつある。中堅・中小企業においても、国際競争力をつけるために、海外に負けない業務の進め方に変革し、それに適したシステム構築をするべきではないだろうか。

■市場変化

パッケージソフトウエアや関連サービスを提供する側にも(図―2)のようないくつかの変化が現れてきている。

今後の中小企業への市場展開に際し問題となる点として、1)顧客でのシステム専門家の不在、2)導入期間と導入コストの低減、3)直販から間接販売への転換、の3点が上げられる。各ベンダーはこのために、1)代理店教育を体型化かつ簡素化し、2)可能な限り標準プロセスをテンプレート化し、3)ユーザが必要部分を定義すればその業務部分を実装できる機能を充実させようと試みている。これらを上手く展開できたベンダーが今後の国内市場の中核となりうる可能性が高い。

特に、中小企業への展開に際しては代理店となるディーラーやインテグレーターにおける人的能力の向上が急がれる。企業の経営者層や業務部門のキーマンの要求を理解しつつ、将来的な企業の方向性に基づいたシステムインフラのあり様を整理し、提案の企画・説得ができるコンサルタントの養成が鍵となってくる。また、中小企業への導入を考えるとき、リモートコントロールでのシステム運用や共同運用センター、アウトソーシングなど運用面でのソリューションも検討されていなければならない。

<ベンダー戦略の変化>
業務ソフトウエアの棲み分けができていたメインフレーム/オフコン時代とは異なり、今やスケーラビリティでは小規模から大規模までサポートすることはデータ量の観点からは非常に容易になった。しかし、柔軟性の少ない小型パッケージとコストの高い大型パッケージのように、購入するユーザの要件と提供されるパッケージベンダー側の要件ではセールストークどうりに行かない現状がある。

旧オフコン系ディーラーである大塚商会や内田洋行などは、既存の販売力を活かしながらパートナー戦略で販売強化を目指している。そのためにカストマイズの柔軟性を高めたパッケージの開発やパートナーの教育に力を注いでいる。

・パッケージングの変化
SAPのように大企業向けに提供されていたERPパッケージがWindows/NTプラットフォームを得たことにより中小規模市場への展開を進めてきている。また、中堅規模市場をマーケットとしていた業務パッケージが中小規模や大企業の一部への展開や中小企業向けのパッケージの中堅規模への浸透が起こり始めている。特に、以前は経理や給与といった単一業務に特化していたパッケージを拡張し、少しでも多くの必要とされる業務機能をサポートしようとする傾向が大きくなってきている。また、各業務パッケージ間の連携機能の強化も進んできている。ユーザにとっては選択肢が非常に多くなりつつある。

・サーバとのバンドル販売
今までは別契約であったサーバとソフトウエアが、プリインストールされたサーバにより導入を容易にすることができ、ユーザにとってはメリットが大きい。コンパックやHPがバンドル販売には熱心である。ただし、タイアップかグループでの総合力か、富士通やNECなどのハードメーカ系パッケージとその他では戦略に違いがある。

・業界別テンプレート
中堅・中小企業市場をターゲットとした場合、いかに各業界をサポートするかが非常に重要となるため、ベンダーやサービスプロバイダーが各種のテンプレートを用意しユーザ企業へのアプローチに活用しつつある。今後はよりこの方向が顕著になって行くであろう。

自動車部品やホテルなど業界に特化することにより評価を得てきたパッケージが多いのも中小企業向けパッケージの特徴でもある。今後はこれらのパッケージも、汎用パッケージの業界テンプレートとの競争が増してくると考えられ、苦戦する可能性がある。

<パッケージ機能の変化>
ベンダーの戦略変更に伴いパッケージの機能面でも変化が起こってきている。

・新機能の拡張
パッケージ活用の広まりに対応してより広い適用範囲を実現する方向に行くベンダーも現れている。例えば、中規模以上の市場をターゲットとしたパッケージの場合、現在では各パッケージとも何らかの形でSCM機能が実装されつつある。また、販売管理系パッケージへの会計機能の追加や会計パッケージへの人事管理機能の追加などが盛んである。まだ過渡期ではあるが、特定業務特化型と業務全般統合型の2極分化の方向である。

・統合化/パッケージ連携
自社のパッケージの拡張のみならず、SSAのようにより広い業務機能の実現に戦略的な提携を選択するベンダーもある。ERP+SCMや会計+生産管理のようなパッケージ間での連携機能の強化はユーザにとって最適のパッケージを選択しながら可能な限り少ない費用と工数で希望するシステムを実現するのに貢献している。また、EAIパッケージと呼ばれる後述のシステム連携を目的としたパッケージも現れてきている。単一企業や単一事業所のシステム導入にとどまらない企業内でのデータ共有のニーズや企業を越えてのデータ交換の実現に向けてのアプローチが今後のテーマになりつつある。

<提供方法の変化>
対象となる市場の変化に伴い販売方法や使用方法にも変化が現れている。

・直接販売から間接販売へ
対象企業の規模が小さくなると直販で全てをカバーすることは不可能となるため各パッケージベンダーとも間接販売の比率を増加させる方向である。しかし、中堅・中小企業市場での成功のために重要なことはパッケージ本体の善し悪しよりも導入サービスを担当する企業の善し悪しが最大のキーポイントとなるため、誰がパートナーとなるかと同時にそのパートナーへの教育が非常に重要である。そのため、オービックなどのように間接販売に慎重なベンダーもある。

・価格戦略/低価格化
プリセット型や機能限定型の価格設定によりトータルコストの低減が進められてきている。その他、モジュールの販売単位を小さくすることにより不要な機能の価格を支払わなくても良いようにするベンダーもある。

・アウトソーシング/共同利用センター
より規模の小さな規模の企業へのアプローチを進めていくときにひとつのソリューションとなるのがアウトソーシング型や共同利用センター型の運営方法である。中規模以上の企業に対してはSI企業が、そして小規模企業に対しては会計事務所や自治体などを中心としてこのサービスの提供を準備しつつある。導入費用面や人的リソースの問題からこの方法を選択するユーザが今後特に増加すると考えられる。パッケージのライセンスの考え方もこの方式に対応できるような変化が起きてくるであろう。

■業務統合(EAI)

組織がますます広範囲に展開するにつれ、企業の情報を見定めた業務システムの統合は最も困難な課題の一つとなりつつある。顧客サービスを向上させ、製品ライフサイクルの能率化を維持し、タイムリーで正確な情報の提供をするには、既存のビジネス・コンピューティング機能を新たな能力を持ったものへと統合し拡張して、情報技術への投資を活用しなければならない。

米国における最近の研究によると、86%近くの管理者が情報システムの統合は真の競合優位をもたらすと強く信じており、88%は能率を向上させると信じている。更に、インタビューを受けた管理者の3/4は要求した情報は複数のシステムに分散されて存在しており、多くの業界で起きている合併や吸収(M&A)により状況はさらに悪化してきていると報告している。

昨年からEAI(Enterprise Application Integration/企業業務統合)という新しい力テゴリーのソフトウェアが出現している。(図―2)このソフトウェアは、複数のアプリケーション間でのデータ連携機能を提供しており、全く別々のアプリケーションが統合され機能することを支援するように設計されている。

このソフトウェアは、社内的な統合を高めるために使用したり、主要な取引き先の活動との統合化に役立てることができる。またEAIは、国内においても今後ますます活発化するであろうM&Aや戦略的業務提携に対しても有効な手段となるものと考えられる。

例えば、CrossWorlds Software社やTemplate Software社などは、そのようなソリューシヨンをパッケージ製品として提供している。(図―4)の例に示すような将来的な変化に対する柔軟性の確保や業務機能拡張のための期間とコストの低減などメリットも大きく、企業にとって「最善の」エンタープライズ・コマース環境を実現することができるので、大企業のみならず企業群での競争力を目指す中堅規模企業にとってEAIは魅力的なソリューションとなる可能性は高い。

■最後に

中堅・中小企業における情報システムの活用には、今までの必要とされる情報を準備する観点だけでは不足である。それは、情報を活用するための人的能力・組織能力の育成・強化無しには宝の持ち腐れ・無駄な投資となってしまうからである。システムプロバイダーにおける業務コンサル能力の強化などを中心としたユーザの戦略パートナーとしての能力強化が急がれる。

中堅・中小規模の企業においても情報システムの新しい形を模索し、新しい要求に応えられる人材の確保が急がれる時代になった。システムの作り方もパッケージソフトの有効な活用が重要なキーになってきた。ユーザの問題、システムプロバイダーの問題と様々あろうが、もはや導入期は過ぎたと言ってよい。今後は、ユーザと戦略パートナーであるシステムプロバイダーが力を合せBPR(Business Process Re-engineering)を推進することにより、世界レベルでの市場変化に立ち向かえる能力をつけるためのツールとして情報システムを積極的に活用すべき時代である。

以上




    
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