経営品質向上の実践ツールとしてのBSC活用

日本フィリップス(株)
経営品質部 部長
高 橋 義 郎

 

1999年にグローバルで導入したBSC

フィリップスは、オランダに本社を置く売上高約3兆5千億円、従業員数約22万人の企業連邦で、
その日本法人である日本フィリップスは、売上高約1,200億円、従業員約700人、グループ会社を
含めると約2,000人の企業である。あまり知られていないが、フィリップスは、コンパクトディスク
(CD)やオーディオカセットテープなどを開発した会社でもある。日本では、コーヒーメーカー、シェー
バーなどの小物家電、半導体などの電子部品、照明機器、医療機器などを手がけている。

我が社がバランス・スコアカード(Balanced Scorecard。以下、BSC)の導入を決定したのは、
1999年7月である。ハーバードスタイルと呼ばれる、キャプラン(Kaplan)やノートン(Norton)の紹介
した一般的なBSCは、「財務」「顧客」「プロセス」「学習」の4つの視点を標準的に用いたものである。
我々も、ほぼこれと同じようなコンセプトでBSCを作り展開している。このなかに、重要成功要因
(Critical success factor) と、その業績を測る指標、それに数値目標を入れ、定期的に達成度を確
認し見直しをしていくのである。3年間くらいの目標を入れておくと、BSCで中期戦略目標がわかる
ということになる。

見直しの結果を示す方法として、目標値を上回るとグリーン、まあまあであれば黄色、目標値を
下回ると赤色、という具合に色分けされ、その結果が一目で分かるようにしている。最近では、社内
のグローバルなコンファレンスでもBSCを用いて会議を進めることが多くなってきたと聞いている。
BSCが社内の共通語として定着しつつあるようだ。

EFQM支援のツールとして導入

弊社がBSCを導入したのは、1999年7月であることはすでに述べた。オランダ本社で、新しいク
オリティー・プログラムを展開することが発表されたときである。フィリップスでは、10年以上前から
品質向上プログラムをグローバルに展開してきたが、この新しいプログラムでは、欧州経営品質賞
であるEFQM(European Foundation of Quality Management)をセルフアセスメント基準とし、EFQM
実践や戦略目標展開を支援するツールとしてBSCを用いることになったのである。BSC以外にも、
いろいろな方針管理や方針展開のツールがあったが、これを契機にBSCを取り入れることになっ
た。

EFQMは、マルコム・ボルドリッジ米国国家品質賞(以下、MB賞)や日本経営品質賞(以下、
JQA)と同じように、グローバルなビジネス・エクセレンスモデルのひとつである。そのクライテリアに
どのくらい近づいていけるかということを、継続的に進めていくのが経営品質向上活動となるのであ
る。 

新しいクオリティー・プログラムには、スピードやチームワーク(たとえばナレッジマネジメント)の
向上により競争力を高めることも望まれている。したがって、それらを示す指標をBSCに入れ込ん
で目標管理をすることも必要になってくる。キャッシュフローや在庫の回転スピードも、スピード経営
につながる重要な指標のひとつである。ナレッジマネジメントは情報の共有化であり、各部門がどの
くらいのナレッジを共有化でき、それがどれくらいビジネスに役立ったかということを、達成すべき目
標の指標としてBSCに入れることもある。サービス部門でも同様であり、彼らのお客さまは社内の
事業部門であるから、事業部門の要望や期待を実現する目標をBSCに取り込んでいくことになる。

欧米の経営品質活動は日本が原点

去年の暮れあたりからBSCの本が書店に並ぶようになった。そのなかに、BSCというのは日本
のQC活動が原点ではないか、という主旨の文言を見かける。決して間違いではないのであるが、
他の側面もあることを忘れてはならない。

80年代は、すばらしい品質の日本製品が世界中を席巻していた時期である。アメリカで日本製品
がハンマーで壊されるというショッキングなニュース画面もあったが、アメリカの偉いところは、なぜ
日本はそんなに強いのかと調べたところである。今で言うベンチマーキングのようなものだが、その
とき、アメリカの人たちは二つのことに気付いたと言われている。そのひとつは、「日本はすごい。上
から下まで、下から上までPDCAを回している。」ということだった。

彼らが持ったもうひとつの気付きは、「日本は、なぜ製造業だけしかPDCAを回さないのだろう」と
いうことであった。行政、病院、政府、軍隊、本社部門、などの非製造部門でもPDCAを回してもい
いのではないかと考えた。そこでアメリカは自分たちでMB賞を作ったのである。これが比較的うまく
いったので、ヨーロッパではEFQMを作り、その後、日本でも社会経済生産性本部を中心にJQAを
作った。グローバルな経営品質のビジネス・エクセレンスモデルというものは、このように世界をぐる
っと回ってきたのである。


日本にあるTQMの二つの流れ

あくまで個人的な意見だが、日本には2つの基本的なTQMの流れがあると思っている。ひとつは、
デミング賞やQC活動から始まり、日本科学技術連盟が中心になって進めてきたTQCの流れであ
る。数年前に、TQCをTQMに変えようとした「TQM宣言」が出された。もうひとつは、JQAやMB賞
を軸とする社会経済生産性本部が中心になって進めるTQMの流れである。こちらはどちらかという
と経営品質に焦点を当て、経営戦略の展開、顧客・市場指向経営であると言えよう。

ISO9001でも顧客指向を掲げている。顧客の望むものを、その要求どおりにきちんと作り供給す
るということである。顧客の要望に適合する(meetする、とかsatisfaction)という意味の顧客満足で
ある。しかし、後者の流れでは、その意味はデライト(delight)であり、顧客の期待を超えることを視
野においている感じがある。それをガイドするのがMB賞、EFQM、それにJQAなどのエクセレンス
モデルであり、そのためにベンチマーキングやBSCを使うことを勧められている。フィリップスはこち
らのTQMを展開していると言ってよく、しぜん、BSCを導入することになったようだ。

誤解を避けるために断っておくが、どちらの流れが良いと断言するつもりはない。それはあくまで
導入する組織が決めることなのであるということを明確に断っておきたい。

BSCの始まりは業績評価ツール

BSCは、1992年にハーバード・ビジネスレビュー(Harvard Business Review)で紹介された。最初
は業績評価のツールであったが、使っていくうちに経営戦略の共有化と展開・実現に使えそうだとい
うことが分かってきた。もちろんアメリカでも浸透しているのだが、どういうわけか北欧の企業でよく
使われている。最近では、投資家にトップが戦略を説明して株を勧めるIR(Investor Relations)にも
登場しているようだ。会社によっては、差し支えない範囲でウエブに載せたり、企業レポートに載せ
たりしている例もあるようだ。投資家によっては、BSCを見ればその企業の将来が大体分かると言
われている。特に、<学習・成長の視点>を見ると、その会社が将来、何をやりたいのかが分かる
そうだ。

また、ITなどの戦略的プロジェクトの投資効果の測定にもBSCを活用できるという説もある。私は
まだ勉強中だが、時間が経てばもっと活用法が明確になるだろう。

多様な分野で導入・検討の動きが

ところで、書店には今、BSCに関連する書籍が並んでいるので、いくつかを紹介したい(文末参
照)。BSCを勉強する人のタイプは、大きく分けて3つあるようだ。ひとつは、組織のコストに焦点を
当て、たとえばABC分析などでいろいろな評価をしていくなかで、BSCを勉強してみようと思い立っ
たタイプである。もうひとつは、我々のように、経営品質を上げていくプロジェクトのなかで、BSCが
うまく使えそうだとして導入する企業である。3つ目はIT関係である。最近、ITコーディネーターという
資格があるが、これにはBSCのコンセプトが強く反映されていると言うコンサルタントもいる。行政な
どでもBSC導入を検討しているところがあり、多様な分野で導入検討の動きがある。

紹介した参考文献のうち『経営の質を高める8つの基準』は、BSCについて書かれた本ではない。
しかし、経営品質について非常に分かりやすく書いてあるので、まずこれを読んでいただいてからB
SCの本を読むと理解しやすい。BSCのほとんどの本は、突き詰めてしまえば、経営品質を高める
目標の達成について触れているからである。


BSC活用は戦略策定が不可欠

BSCは戦略を実現するツールである。非常に単純なマトリックスであるのに、よってたかってBS
Cを難しくしている感も否めない。いろいろな角度から検証され、だんだん高尚な経営管理ツールに
変身してきているが、もともとは「やらなくてはいけない、いろいろなものをシンプルにひとつにできな
いか」という現場の疑問に対する回答のひとつがBSCなのだろう。ただし、シンプルではあるが、そ
こにはBSCの魅力を引き出すルールやポイントがある。そこさえ掴めば、BSCをやっていてよかっ
たと思えるはずだ。いずれにしても、戦略を作らなければBSCを活用できないことを、まず知ってお
いて欲しい。

いろいろな経営手法が出てくると、一体何を軸にしていいのかと現場サイドは迷ってしまうもので
ある。経営者自身も市場の変化に対し、何をやっていいのか戦略を絞れなくなってきているという状
況を、すっきりとシンプルにまとめていくのがBSCだと思う。

会社に新しい社長が来れば「うちの会社や組織は、これこれこういう方向で行く。5年後には売上
はいくら、これぐらいの規模、この製品を伸ばして」と、ビジョンをきちんと出す。そして、ビジョンを事
業計画に落とし込む。これを戦略とか経営方針と呼んでいる。

戦略や経営方針を作ったら、それを実現するためにどうするかというゴールを作る必要がある。この
ゴールをシンプルにまとめていくのにBSCが使えると考えてよい。したがって、BSCの本を開けると、
必ず中央にビジョンと戦略を置いた図が書いてある。すべての目標は、ビジョンや戦略の実現につ
ながっていなければならないのである。

戦略達成とのつながりが重要

あるOA関係の会社では、社員の教育訓練目標を<学習・成長の視点>のなかに入れている。
その一例が演劇学校に行かせることだそうで、なぜ演劇学校かというと、その会社の経験では、顧
客にソリューションを売り込む場合、プレゼンテーションの善し悪しが成約に大きく影響するからだと
いう。そのためには、社員に演技力が必要になる。そこで演劇学校に通わせるアイデアが生まれて
きたのである。演劇学校に通った社員のプレゼンテーションによる成約率を調べ、それが上向いて
いれば、教育訓練の効果が出ているということになる。そして最終的には財務の目標である売上に
つながる。この会社のBSCは、戦略目標実現につながるようにできているのである。

4つの視点の因果関係を明確に

そこで重要になってくるのが<4つの視点>の内容である。ある会社が、ビジョンや戦略に沿った
ゴールを設定しようという場合、おそらくその9割以上は<財務の視点>であろう。説明を単純化す
るために売上を例にとると、「売上を上げるためには、お客様に対して何をすればいいのか」という
ことになる。「売値が下がれば購入量を増やすことを検討する」とお客様から言われたら、営業マン
は<顧客の視点>に販売単価を下げる目標を入れる。そして、それを実現するためには製造部門
に原価削減を依頼することになるから、製造部門は業務プロセスのなかで原価を下げる努力をする
ことになる。この目標は<プロセスの視点>に入れられるはずだ。その目標が実現できると販売単
価が下がり、その結果、お客様への販売が増えるという因果関係が生まれる。

当然のようだが、4つの視点において、きちんとした目標設定をし、それを実現すれば必ず戦略
や事業目標を達成できるということをシステマティックに明確にするという意味で、BSCというのは
担当者の目標をコミットするツールにもなる。そして、業務プロセスを実現するために、従業員の満
足度とかスキルアップをどうするかというところに行き着く。これが<4つの視点>の因果関係であ
る。この因果関係がきちんと作られていないために、<顧客の視点>や<プロセスの視点>の目
標を達成したのに、<財務の視点>の目標である売上が増えないというケースが出てくるのであ
る。

繰り返すようだが、お客様に直接接触している人たちが顧客ニーズをきちんと把握しておかない
と、正しい因果関係を作れないということになり、誤った目標を<顧客の視点>の中に入れてしまう
と、それが達成できても財務の目標が達成できないということになってしまう。<4つの視点>を理
解し、きちんと検証していくのが、BSCのひとつの成功の鍵である。我々もまだ2年くらいの経験だ
が、あまり効果がないという声が現場で出てくるときは、大体その辺に問題がある。BSCの検証や
学習を繰り返すことによって、だんだんと質が向上していくと思う。

BSC作成をファシリテートするワークショップの一例

では、財務の目標を達成するために、非財務指標をどう作っていけばいいのだろうか。このような
作業を行うことを考えて、我々独自の教育パッケージを作ってみた。BSC作成経験のない人が急に
作成しなくてはならなくなった場合、どのようにファシリテートしていくかを紹介してみよう。

まず最初の1時間に、BSCについての基礎的な説明をし理解をしてもらう。次に事業計画をもと
に<財務の視点>の重要成功要因を摘出する。いろいろな指標の中から、少なくともこれだけは達
成しないと困るという指標を6個くらい摘出するのである。フィリップスでは<4つの視点>の重要成
功要因の数を最大24項目としているが、世間では16項目でもよいと言っているところもあり、それ
は組織によって決めればいいだろう。組織の上になればなるほど管理指標を多くしたがる傾向が見
られるが、なるべく少なくしたほうがよい。そうしないと、だんだん下へ展開するに連れて、その数が
増えていくということになる。

<顧客の視点>の重要成功要因を考えるとき、一番多く出てくる指標のひとつが、ブランドの浸
透度とかマーケットシェアである。それでもいいのだが、しかし販売戦略を明確にしながら指標を設
定しなければならない。たとえば、販売本部長が掲げる販売戦略が、今まで買っていただいたお客
様のロイヤリティーを上げること、すなわちリピートオーダーを増やしたいということであるならば、多
くの人々にブランド浸透させるのは、戦略実現上、あまり意味がない。したがって、ロイヤリティーの
向上は、ブランドイメージの向上や浸透ではなく、サービス関係の充実によるお客様の満足度を上
げることかもしれない。もしそうならば、それを目標におくべきである。これが、戦略を考えながら目
標を設定していくことになる。

このような方法で作成されていくものが戦略マップと呼ばれるものである。それぞれ一時間ずつ
かけて<4つの視点>を埋めていくと、だいたい4、5時間で一枚のBSCが作成できる。BSCのマ
ッピングのプロセスは必ず必要であるが、一人あるいは仲間でやってもうまくいかないことがある。
そのような場合には、部外者でもよいから、BSCのことを知っている人、いわゆるファシリテーター
の力を借りると、固定観念や思い込みを整理してくれ、因果関係がきちんと作成できることが多い。
最近は、ソフトメーカーがBSCを作成できるソフトを提供しているようだが、しかし、ソフトを利用する
場合でも、基本を理解したうえで使うのがよいだろう。

BSCでは、<4つの視点>の因果関係が重要であることは繰り返し述べた。<業務プロセスの
視点>も、仕事ができるような能力やスキルがつけられてこそ達成できるのであるが、まだまだ勉
強不足と感じるのは<学習・能力の視点>である。他の3つの視点を実現させるドライバーとなるこ
の視点の重要成功要因の摘出は、ある大学院での研究テーマに取り上げられているほどで、現実
的な策定ができるかどうかはこれからの課題であり、最も重要なところだと思う。

BSCの展開とコーチング・コミュニケーション

BSCの展開プロセスは、まずビジョンや方向性を明確にすることに始まる。それを受けて、各関
係事業部門では、ビジョンを達成するための活動計画を作り、社員に方向性を伝達する。BSCは、
だいたいこの段階から作り始める。どこの事業部でも、3年間くらい先までの事業戦略を作っている
ので、それをBSCに焼き直すのである。SBU(Strategic Business Unit)という言葉が使われている
が、事業部門単位で作るのが一般的である。作成されたBSCは、定期的に(早ければ月毎、あるい
は四半期毎)見直し、未達が出たらすぐに戦略を練り直す。

BSCを下に展開していくときに重要なのは、上位者によるコーチングである。コーチングというの
を簡単に言うと、上司として部下の目標達成のために、どういうサポートができるかを話し合い、そ
の動機づけをし、部下に目標達成を実現させるリーダーシップのスキルのひとつである。BSCを見
ながら部下と達成度についてレビューすると、そこでコーチングをする。これをきちんとしているとこ
ろとしていないところでは、やはりBSCの達成度の差が生まれる。当然、こうしたコーチングは、上
下の健全で円滑なコミュニケーションを生み出す。きちんとした形でサポートをコーチングで行い、正
しいコミュニケーションをとるということは、社員のモチベーションを上げるひとつの重要なファクター
でもあると言える。組織の風土が良いものになっていくことにもつながるはずである。

顧客がいればBSCは作れる

サービス部門や非営業部門の中には、「自分たちはお客様がいないのだから、BSCは作れない
のではないか」と言う人がいるが、これは間違いである。仕事をしていれば必ず顧客はいるもので、
顧客をサービス・レシーバーと言いかえれば分かるであろう。

例えば、人事では、リクルート担当のお客様は事業部門であろう。事業部門の戦略目標や事業
目標を達成するために、必要な人材を要求どうりにきちんと提供できるかがリクルート担当の仕事
である。その満足度は、やはりお客様である事業部門が判断しなくてはいけない。誰がお客様かが
分からなければ、お客様の期待や要望をつかめるはずがないし、目標の設定もできないことになる。
お客様満足度をどのように達成していくのか。このように考えると、BSCをどのように作るべきかの
答が出てくる。

経営品質向上に貢献するBSC

次に、経営品質の向上にBSCが役に立つのではないかという話をしたい。経営品質とは、株主
満足の達成が基本にある。その達成のために継続的な利益を確保しなくてはならない。一方で、利
益を与えてくれるのはお客様であるから、顧客満足の実現は株主満足を達成するために不可欠で
ある。お客様に商品を買ってもらうには、品質、サービスなどの付加価値を生むプロセス、仕組みが
必要になってくる。そして社員満足やコミュニケーションがよくないと、やはりいい商品ができないの
である。

この経営品質を高める4つのポイントは、BSCの<4つの視点>とぴたりとあてはまる。TQMや
経営品質の向上を実施するのはなかなか大変なので、まずBSCをやってみらたどうかと提案する
ことがある。顧客指向、プロセス指向、社員指向という目標を作れるので、株主満足にもつながって
くる。そのような理由から、BSCを導入すると、JQAとかMB賞のセルフアセスメントの評価点が上
がってくることになる。

弊社ではEFQMをセルフアセスメントのクライテリアに使っている。その仕組みを簡単にいうと、ま
ず、トップは必ず方向性を示し、方向性やビジョンが明確になれば戦略、事業計画を作る。事業計
画を作ったら、それを実現するために、どのようにして人、物、金、情報を活用していくのか、仕事の
プロセスや仕組みはどうするか、お客様に買ってもらえるような仕事のやり方になっているか、顧客
満足度、社員満足度、社会への貢献度、そして最終的に財務の目標など、いろいろな目標が達成さ
れているか、を9つのクライテリアで構成されている。これらのクライテリアは、BSCの<4つの視点
>に符号し、したがって、BSCをやっていくと、全部ではないが、経営品質の要求事項に対して応え
られることが分かってきた。BSCを展開してからアセスメントすると、実際に点数が上がっていくの
である。

ISO9001・2000年版を支援するBSC

品質が低下しないように品質マニュアルを作り、その「くさび」の役割をするのがISO9001である。
2000年に改正されて、8つのクオリティーマネジメントシステム(QMS)の原則が入ってきた。顧客重
視、リーダーシップ、人々の参画、プロセスアプローチ、などである。この原則もBSCの<4つの視
点>に符号することが分かる。

ISO9001は世界共通の品質保証基準を作ろうということで誕生した。一方、TQMと言われるMB
賞やJQAがスタートし、BSCも1992年に生まれた。この3つが別々に発展し、使われ始めたのであ
るが、1998年から2000年にかけて、この3つが徐々に接近する方向にある。たとえば、2000年の改
正を機会にISO9001がビジネス・エクセレンスモデルに近づいている。そう考えていくと、BSCは
ISO9001・2000年版も支援するものになってくるはずである。2000年に改正されたISO9001は、経営
者の責任で目標を設定して、それを達成しなさいということである。そのために人、物、金、情報をき
ちんとマネージし、仕事のやり方をお客さまの満足を満たすような仕組みづくりにするプロセスマネ
ジメントを行い、最後に顧客満足の結果を測定するというように、やはりJQAなどの考えに近づいて
いる。このような意味で、BSC導入により、新しいISO9001も支援することができそうで、また、品質
目標にBSCを適用することも可能である。

BSCに期待される今後の展開の可能性

経営戦略共有化と実施のツールとして展開されはじめたBSCの今後の可能性を以下にまとめてみた。

  
・経営戦略共有化と実施のツールとして 
   (4つの視点、中・短期戦略のバランス良い経営戦略目標策定、 
   事業戦略の組織内展開・見直しとそのコミュニケーション支援、 
   経営品質向上につながる経営活動の現場への落とし込み、など)
  ・IRのためのディスクロージャーツールとして 
   (機関投資家への戦略や将来の組織価値の説明)
  ・ITなど戦略的プロジェクト投資効果測定のフレームとして 
   (IT投資効果評価領域へのバランス・スコアカード概念の活用)
  ・ビジネス世界での普遍性の高い共通言語として 
   (数値化された共有のマネジメント概念)


※本記事は、社団法人企業研究会発行 『Business Research』 No.930:2001年12月号
特集「経営品質向上とバランス・スコアカード」に掲載されたものです。

参考文献:
「経営の質を高める8つの基準」 かんき出版
「戦略的バランススコアカード」 生産性出版
「バランススコアカード経営」 日刊工業新聞社
「バランススコアカード理論と導入」 ダイヤモンド
「ネオバランススコアカード経営」 中央経済社
「バランススコアカード経営入門」 ダイヤモンド


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