バランス・スコアカード(BSC)活用における注意点
西嶋 陽一/TRUソリューションズ
「バランス・スコアカード」(以下、BSC)は、大企業・大組織のみならず中小企業やベンチャー企業においても十分その有用性が発揮されることから、現在、多くの企業で導入検討・活用が進みつつある。また、企業の中でも間接部門への適用や、非営利事業である行政組織や医療法人等への適用も検討されつつある。 もっとも、日本でBSCが注目されるようになったのはここ数年のことであり、ここにきてようやく実際にBSC導入を試みた企業からの事例が報告されるようになってきた。なかでも戦略目標を下位部門へ展開する際に重要となる成功要因や評価指標の適切な選択、既存の経営管理システムやその手法との整合、業績評価や報酬との連動といった、運営上の課題が多く挙げられている。それらの報告や意見をまとめてみると、日本企業がBSCを導入する場合、以下のような点に留意する必要があると言える。
特に、導入初期段階で多くの組織が陥りやすい現象としては、「形を作ることを急ぎすぎる」、「細かくし過ぎる」、「すべて決まらないと動き出せない」、等々の傾向が挙げられるので注意いただきたい。 数値化された共有のマネジメント概念としてBSCを企業や非営利組織に導入しようとする動きは、今後も日々活発化していくであろう。だが、国内のBSCの状況を見渡すかぎり、「BSCを導入すべきか否か」、あるいは「BSCをいかに推進すべきか」といったことよりも、むしろ「経営トップが明確なビジョンや戦略を描ききれているか。本当にそれを実行に移し、やり遂げる意志があるのか」「部門責任者には、現在の既得権を捨ててでも、改革を推進する覚悟があるのか」といったことのほうが問題となっているように思える。 あくまでツールのひとつであるBSCには、残念ながら、経営者や管理層の意識を変革させるほどの力はない。BSCを推進する場合には、まずこの現実を踏まえたうえで経営トップや管理層を説得する必要があることにも留意しておくべきであろう。 ビジネスを取り巻く経済環境は、引き続き予断を許さない状況が続いており、今後も多くの企業でBSCの考え方やフレームが活用される場面が増えると予想される。その際、グローバル・スタンダードにかなう「ビジョナリー戦略経営」の実践、ビジネス・エクセレンスの向上による卓越した競争力のある組織づくり、そしてステークホルダー重視の経営をいかにして実現させるかが重要となってくる。日本のCIOも独自のBSC活用法を編み出し、より的確なIT戦略を策定されることを期待したい。
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